複業元年と言われた2018年から2年が経過し、様々な働き方がメディアでも取り上げられるようになりました。2つ以上の名刺を使い分ける人材も増えていますよね。

そして、複業の波は公務員にも確実に来ていると考えます。

しかし公務員とは、営利を目的とせずに国や地方公共団体などの職員として、広く国民に対し平等に働くことを活動目的としている方々です。営利活動になることや複業をそもそも禁止している行政もあるでしょう。

「私は公務員だから、複業なんて関係ない…」これは、果たして本当にそうでしょうか?ご自身が本当にやりたいことから、目を背けていませんか?

実はすでに公務員という肩書を持ちながら、役所の部署や業務の枠を飛び越え、時には民間企業や人を巻き込みながら活躍する人材がいます。

そういった方々を、我々は「越境人材」と名付けました。そして今後の日本の社会や地域を変えていくのはこういった人材ではないか…という考えから、今回のイベントが立ち上がりました。

本イベントでは、”複業研究家”であり『複業の教科書』執筆の西村創一朗がモデレーターとして、現役「公務員複業家」のお二人の働き方・考え方を探っていきます!

ゲスト紹介:

長井 伸晃(ながい のぶあき)

神戸市企画調整局つなぐラボ特命係長。
横断的な政策課題に対し、課題の実態リサーチと関連するステークホルダーとの連携を図り、市民本位の具体的な政策・課題解決につなげるべく、遊撃部隊として活動する。
これまでに、フェイスブックジャパンやヤフー、Uber Eats、出前館をはじめとする数々の企業との事業連携を通じて地域課題解決に取り組むとともに、バルセロナ市との連携によるオープンガバメント人材の育成を図るワークショップなどの企画を行った。
また、神戸で開催されるクロスメディアイベント「078」や「TEDxKobe」に加え、全国の公務員コミュニティ「よんなな会」など、様々なイベントやコミュニティの運営に関わる。

複業としては、神戸の知られざる魅力を発掘・発信するNPO法人「Unknown Kobe」を設立し、まちあるきイベントやセミナーなどの活動を行っている。
「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2019」受賞。

尾崎 えり子(おざき えりこ)

株式会社新閃力 代表取締役。
早稲田大学法学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、子ども向け教育事業会社に転職。企業内起業にて、第一子出産後子会社の代表に就任。
第2子出産をきっかけに退職し、2014年に千葉県流山市で創業。2016年サテライトオフィス「Trist」をオープンさせ、都内からの企業誘致に成功する。メディア掲載、受賞歴多数。
2018年太田プロダクションのお笑い養成所に通い、13期生として卒業。2020年4月から奈良県生駒市の教育改革担当に採用。企業を経営しながら、公務員として新しいキャリアにチャレンジ。
9歳と7歳の2児を育てるワーキングマザー。

大好きな神戸の街のために、公務員×NPO法人という立場から多種多様な取り組みを実行!(長井 伸晃さん)

ーさっそくですが、公務員でありながら複業ってアリなのでしょうか!?

長井さん(以下、敬称略):僕の働く神戸市は、職員の複業制度を2017年の3月に取り入れ、話題になりました!私自身もあるキッカケと出会ってから、色々なプロジェクト・活動を複業を行うようになりました。

神戸市は職員が公共性のある組織で副業に就きやすくするため、4月から独自の許可基準を設ける。一定の報酬を得ながらNPO法人などで活動できるようにする。総務省によると、副業推進を目的に自治体が独自の許可基準を設けるのは珍しい。職員の働き方を多様化し、外部での経験を公務に生かして市民サービス向上につなげる。

4月から設ける基準では(1)社会性、公益性が高い(2)市が補助金を出すなど特定団体の利益供与に当たらない(3)勤務時間外(4)常識的な報酬額――などを明記して、職員が副業しやすくする。職員が休日にNPOで活動したり、ソーシャルビジネスを起業したりすることを想定している。中高年の職員が退職後の「第二の人生」に備えて、在職中から地域貢献活動などに参加しやすくする狙いもある。

神戸市、職員の副業推進  2017/3/3付 日本経済新聞 朝刊

ー長井さんは、普段神戸市にてどのようなお仕事をされているのでしょうか?

長井:僕の経歴をお伝えすると、最初は神戸市の生活保護のケースワーカーから人事・労務系のお仕事、その後はICTを活用した地域課題解決やコミュニティづくりに取り組むようになり、現在の「つなぐラボ」の業務に繋がっています。
人事・労務系のお仕事では、役所外の方とはあまり関わらない6年間を過ごしておりました。
このICTを活用した地域課題解決を担当する新規部署の立ち上げ時がターニングポイントでしたね!前任者もいない状況で、大手IT企業等と連携をして、行政の課題を解決するという仕事でした。

ーつなぐラボではどのような取り組みをされているのですか?

長井:つなぐラボのミッションは、市民や地域に溶け込んで行政の取り組みが届いているか、足りないパーツがないかどうかを検証し、政策を提案してほしいというものでした。多種多様なメンバーが集められ、地域や市民のために出来ることを企画・提案しています。

つなぐラボでの事業内容

私が担当してきたものでいいますと、先ほどのICT活用の部署とつなぐラボでの取り組みとして、これまで10企業1都市との連携を実現し、地域課題解決や新たな市民サービスの創出につなげています!

ー特に印象的な仕事のエピソードはありますか?

長井:僕個人としては、かつてよりフードロス対策の事業やシェアリングエコノミーの事業もずっとやってみたかったので、今回の新型コロナウイルスの影響を受けてUber Eatsや出前館と連携を開始するなど、市民のために行動を起こせて良かったと思っています。

神戸市は、緊急事態宣言後に独自の「新型コロナウイルス感染症対策 最優先宣言」を発出しました。その発令を受け、僕の本業である「つなぐラボ特命係長」と兼務で「広報特命班」としていわば”庁内複業”のような活動をしておりました。

「つなぐラボ特命係長」×「広報特命班」の取り組み

飲食店支援など、つなぐラボとして考えてきた企画を記者会見で発表したりする中で、ひとつの部署だけでは分からなかったことを新たに気づけた瞬間も多数あったので、非常にいい経験になりました。
この任務は、第一弾から第四弾まで市民や飲食店の方々の声を集約し地域の方々の支援を段階的に進化させていきました。

ー本業でも実績がある長井さんが、複業を始めるキッカケと両立のコツは?

長井:つなぐラボの仕事を通じて、非常に多くの気づきと仲間に出会えたのがキッカケです。
現在僕は複業で神戸の知られざる魅力を発掘・発信するNPO法人「Unknown Kobe」を設立し、まちあるきイベントやセミナーなどの活動を行っています。

NPO法人「Unknown Kobe」の取り組み

このNPO法人を立ち上げるとき、とにかく企画段階からワクワクが止まらなくて、10人ほどの知人に資料を送って「あなたと一緒にこのような活動をしたい!」と仲間を集めたんです。
目的を共有した結果、全員から良い返事をいただけました!その10人は、自分に足りないものを補ってくれるメンバーや、一緒にやったらスムーズにこのプロジェクトを進められるだろうと思えたメンバーで構成されています。そうして、仲間を集めて本業との業務のバランスも取れるように始めました。
NPO法人での取り組みは神戸市の仕事の性質と全く異なるようなものではなく、親和性も高い。仕事の領域は区別はしているけれど、常に神戸の街を良くするためにはどちらでやった方が近道なのか?と考えながら進めています。これが両立のコツです。

ー複業をやっていて、本業に活きたことは?

長井:僕が複業で一番得られたものは、ネットワーク、繋がりです。
NPO活動やイベントの運営スタッフをする中で、IT系やクリエイティブ系の仕事をしている方々など、公務員の仕事ではなかなか関われない方々と出会えた上に、連携できるようになったのはとても大きかったです。
イベントの運営や企画をし続ける中で、本業以外での出会いを本業に持ち込み、ネットワークと温度感を持ち込めました!これは本業だけでしたら得られていなかったと思います。

自分自身の実現したいことを、社会の課題と重ねた!民間企業の経営者が公務員になるまで(尾崎 えり子さん)

ー尾崎さんは起業家として活躍している一方で、お笑い養成所に通うなど多方面で活躍されていますよね。その中でも、流山市で実施している取り組みについて聞かせて下さい!

尾崎さん(以下、敬称略):私の目標は「全ての子ども達が親の文化資産に寄らずに、多様な経験、多様な人脈を築ける社会をめちゃくちゃ面白く作る」というもの。そのため、日本の社会が抱えている課題を解決し、我々の子どもたちの置かれている環境を変えたい!と思い活動をしています。

2020年の現在、日本では下記のような問題が起きているかと思います。

・首都圏の飽和と地域の過疎化が起きている
・働き方改革をやっているも、人材の減少と質の低下が起きてしまっている
・教員不足や学校組織の限界
・子ども達の心の問題と学びの質も課題視されている

企業や行政もめちゃくちゃ頑張っているのに、どの施策も歯車が組み合っていない…これが、かねてより私自身改善したいなと思っていました。そこで、自分が住んでいる流山市を基軸に企業を立ち上げ、「街まるごとの改革プロジェクトを企画・開始しました。
私が今一番実施したいことは学校内にサテライトオフィスをつくることです。

新閃力の働き方改革

ー尾崎さんのご家族やお子さんもこの取り組みには関連していらっしゃいますよね。

尾崎:そうですね。この取り組みをもっと拡散したい!と思ったキッカケは、私の息子が関連しています。息子は仮面ライダーが大好きで、学校でそのことを話したら「幼稚だ」笑われて悔しい思いをしたそうなんです。
そこで息子のために、仮面ライダー好きな大人・子どもを地域から集め、仮面ライダーの良さについて語る会を実施したところ、この取り組みを地域に浸透させたい!と強く思えたんです。

▼その時の様子をまとめた投稿がSNSなどで話題に!
https://note.com/backcasting/n/nd7081582fbf7

自分が住んでいる地域で、年齢に関係なく趣味で繋がることが出来ること・自分の大好きなことを地域の中で実現できたり、大好きなものを大好きだと声に出せることはとても素敵なことですよね。
大人も子どもも、より繋がれる場を作りたいと思い全国の学校の空き教室に、シェアサテライトオフィスをつくることを本格化させたいと思ったんです。

 

サテライトオフィス「Trist」について

学校に様々な職種の大人が出入りするため、美術の授業をプロのデザイナーから学ぶことも出来ます。また、親御さんのオフィスが学校にあれば、親子で一緒に登校できますので家族の時間も作れます。子ども達はオフィス利用者にカフェを開業し、、お客さんとのやりとりなど実際にビジネスの体験をすることが出来ます。そうした相互に良い変化がもたらせるような新しい空間を創りたいと企画しました。

ーご自身で創業した会社で活躍しつつ、なぜ公務員になろうと思ったのですか?

尾崎:経営者としても、今までの事業は全て前述の「夢」に向かって進めてきました。
ただ、一気に全国の学校に対してこの取り組みを横展開・浸透させたり、インフラとして継続性をもたせて拡大してけるのは、民間企業ではやはり難しいと感じることもありました。
民間企業でも小さな範囲からトライ・アンド・エラーを繰り返すことは出来ますが、外からではなく、内側(行政)に入って政策として取り組めるのは大きなメリットではないかと考えたのです。そうして2020年の4月に、奈良県生駒市の教育改革担当に就任しました!
これから日本を教育大国にしていくべく、様々な活動を推進していく予定です。

これから複業を始めたい!自分に合った働き方を考えたいと思っている方へメッセージ(パネルトーク)

ここまで、お二人の現在のお仕事内容を伺ってきましたが、もう少し複業について触れていきたいと思います!そこで、参加いただいた約50名の方からの質問に回答いただきます!

質問1:複業を実施するにあたって、職場の理解はどう得ているのでしょうか?

長井:神戸市は複業推進が制度で認められているので、自分以外にもやっている職員はいます。ただ、理事長としてNPO団体を立ち上げたのは僕が初めてだったようで、反響も多々あったし「なんでそこまでやるの?」と懸念する声もありました。
そういう方々にはちゃんと自分の想いを伝えたり、事前に相談して、応援してもらえるように自分の働き方を伝えたりしました。本業も複業も含め、街のためにやった取り組みが全国に広がっていくと良いなと考えています。
公務員という立場は信頼もあり、とても恵まれていると思います。それがあるからこそ実現できている部分もあると思うので、今後もそれを活かしつつ、一方でやはり常に公平性は問われるので、反対意見にも謙虚に向き合う姿勢やバランス感覚・精神力は重要かなと思いますね。

 

質問2:複業禁止の会社・自治体の方でも何か取り組めることはあるのでしょうか?

長井:確かに、報酬が出てしまう複業を禁止している団体もあると思います。神戸市の場合は地域活動やNPOの活動など、地域貢献に関わる仕事を申請して許可が下りれば、限度を超えない範囲では報酬を得ても良いという制度です。
僕もNPO立ち上げ時は無報酬でも良いから、本業とは別に「これがやりたい!」というワクワク感で動き始めました。無報酬での社会貢献活動でも、本業に活かせることはたくさんあります。思い立ったらフットワーク軽く挑戦しても良いと思います!

 

質問3:公務員の人向けの、オススメの複業はありますか?

尾崎:公務員の方が新規事業開発などに関わる機会があれば、地域に還元したり事業企画を行ったりする際の必要なスキルが得られると思います!
ビジネスはゼロイチを経験したり、事業を作ってから利益を作っていく仕組み化を体験できますが、公務員の仕事は最初に予算が決まっているところから企画を作っていくことが多いように感じます。そのため事業化する・ビジネスを回していく感覚を体験するような環境・仕事を探しても良いかもしれませんね。

長井:確かに。公務員は予算をどう使うのかを考える仕事が多いし、新規事業やゼロイチを行う瞬間って限られていると感じるので良さそうですね。最近では色々な企業がSDGsの取り組みや地域支援をしていますよね。
ただ、営利目的の企業で複業をすることは、外から見たらどう見えるのか…?ということは常に意識して、公務員という立場上慎重に考えるべきかなとは思います。
神戸市では、公務員として1〜2年間IT企業に職員を派遣するカタチで人材交流をしています。公務員としての肩書を残しつつ、民間企業での取り組みや良さをインプット出来る取り組みです。そういった仕組みを通じて、新規事業の立ち上げを体験するのも良いのでは!

 

質問4:これから複業に実践したい!という方は、まずは何からやったら良いの?

長井:私もそうでしたが、未経験の方がいきなり大風呂敷を広げてスタートするのは難しいと思うので、最初にやりたいことを言語化し、賛同してくれる人や協力してくれる仲間を得るというのが最初のアクションかなと思います。
まずはスモールステップから始め、そこから少しずつ実績を重なる中で、どんどん仲間も増えて大きな取り組みになっていくというのが理想の形ではないかと思います。

尾崎:ワクワクを感じ始めた瞬間から、飛び込んでみるのがオススメです!「わたしなんて無理だ…」と冷静に考え始めたり、仕事や生活のことなどリスクばかりを考えると何も身動きできなくなってしまいます。
一歩目はちょっと無謀かもしれないけど、何かワクワク!と感じたらポチッと何かのスイッチを押してみると良いと思います。
自分にとってアウェイなところに行くと、常に新人として色々なものを吸収することが出来ます。「何でも教えて下さい!」というスタンスで、様々な方から学んだことを自分の力にしていくと良いのではないでしょうか。

 

最後に、公務員の方やこれから複業を始めたい方へ、メッセージをお願いします!

長井:僕自身が今回参加して改めて、色々な仕事や働き方があるなと感じました。僕の場合は、自分に与えられたやるべき仕事を一生懸命やった結果、ワクワクしたものを見つけ、飛びついてみて、今こういった働き方をさせていただいています。
今後も、自分自身でこの働き方を続けつつ、仲間やこれから挑戦したい人のサポートできることはやっていきたいと思えました!

尾崎:ただ単に複業は良いものですよ!ということではなく、自分自身が何をやりたくて、どうなりたいのか?というビジョンを自分で持っておくことが大切です。
今回の新型コロナウイルスの件みたいに、社会や環境が変わったりしても、「Being」があれば自分や自分の行動は変わらないと思うのです。
複業でも何でも、ただひたすら手を付けて何も実績が作れない状態ではなく、自分がどうなりたいのかという「Being」も決して忘れないでください!

 

素敵なメッセージ、ありがとうございました!

お二人のお話を聞いて、挑戦しようと思える方が1人でも増えていきますように。機会がありましたら、イベント第二弾をご用意するかも? 乞うご期待下さい…!

 

(取材:西村創一朗:、文:MOE、デザイン:五十嵐有沙)

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう