2020年7月20日、パラレルプレナージャパン公式イベント「パラレルキャリアを活かしたイントレプレナー人材の話を聞いてみよう!Vol.3」が開催されました。
パラレルプレナーとは、パラレルキャリア(複業)で得たものを活かして、イントレプレナー(社内起業家)として本業でも新しいことにチャレンジしている人のことです。
パラレルプレナー3名によるLT(ライトニングトーク)、パネルディスカッション、交流会と内容が盛りだくさんであった本イベントのレポートをお届けします
▼本イベントのグラレコがこちら!
パラレルプレナーのLT
まずはパラレルプレナーとして活躍されている3名のライトニングトークからはじまりました。それぞれの活動や、その軸にあるミッション、意識しているポイントをお聞きします。
主体性と健全な自己否定
大手企業で働きながら、一般社団法人を設立された石川さん。「家族」というチームをベースにしながら、主体性と、会社メンバーとの関係性を大事に働かれています。
石川貴志 プロフィール
一般社団法人Work Design Lab 代表理事
リクルートエージェント(現リクルートキャリア)の事業開発部門のマネージャーを経て現在、大手出版流通企業の経営企画部門にて勤務。2013年にWork Design Labを設立し「働き方をリデザインする」をテーマにした対話の場づくりや企業や行政等と連携したプロジェクトを複数手掛ける。2018年にAERA「生きづらさを仕事に変えた社会起業家54人」選出。(公財)ひろしま産業振興機構の創業サポーターや、(独)中小機構が運営するTIP*S アンバサダー、順天堂大学 国際教養学部グローバル・ヘルスプロモーション・リサーチセンターの客員研究員なども務める。1978年生まれ、三児の父。
パラレルプレナーという働き方のポイントは「パラレルキャリア(主体性)」と「イントレプレナー(関係性)」にあります。
パラレルキャリアには、会社から飛び出す「越境力」がまず要ります。それを支えるのが、「自分はどうしたいのか」という問いです。つまり、主体性が鍵。私自身は、自分の法人をもち主体性を発揮する個人を「会社員兼CEO」と呼んでいます。
パラレルキャリアで名刺が複数あることで、それぞれの出会いに合わせて最善な自分をチューニングすることも可能なんです。
その一方で、イントレプレナーという側面は、会社との関係性の中で問われます。主体性を持ちつつも、「健全な自己否定力」を兼ね揃えて、ゆるやかに自分を変化させていくことが必要となってくるのです。正しさだけで押し付けても、相手ありきだと上手くいかないため、「再結合力」が重要になるでしょう。
また、わざわざ社内を飛び出し、パラレルキャリアを築くのであれば、「非金銭的価値を何に感じるのか?」について考えるべきだと思っています。
人生100年時代には、お金を払ってでも複業を
つづいて、「日本一おかしな公務員」という本も出版されている山田さんからお話いただきました。(山田さん、なんと標高920メートルからのご出演となりました…!)
山田崇 プロフィール
1975年塩尻市生まれ。千葉大学工学部応用化学科卒業
塩尻市役所 企画政策部 地方創生推進課 地方創生推進係長(シティプロモーション担当)
空き家プロジェクトnanoda代表
内閣府 地域活性化伝道師
信州大学 キャリア教育・サポートセンター 特任講師(教育・産学官地域連携)ローカルイノベーター養成コース特別講師/地域ブランド実践ゼミ
私はプライベートな時間を利用して、公務員以外の個人としての活動をしています。個人の活動は、お金を払ってでもやるべきだと考えています。実際、私は所属しているふたつのNPOに自分の時間とお金をかけて参加しているんです。
私は「LIFE SHIFT」という本に大きな影響を受けています。「人生100年時代」はいまだかつて人類の誰も体験したことがないステージ。まさにいま始まった新時代に適用するために、今からでも動く必要があります。
①エクスプローラー(探検者)として好奇心に従い、自分のやりたいことをやる。
②インディペンデント・プロデューサー(独立生産者)として自分で仕事を作り出す。
③ポートフォリオ・ワーカーとして異なる業種の活動を同時に行う。
このような動きをして回ることが、将来の仕事のきっかけとなっていきます。私自身、個人で活動していたことが、公務員の仕事へとつながりを見せてきました。
ミッションを軸に、かけあわせで「1」として捉える
最後に平原さんのLTです。「世の中の境界線を溶かす」をミッションに掲げる平原さんは、その言葉通り、個人や会社、事業の枠を超えて、相乗効果を積極的に生み出しています。
平原依文 プロフィール
小学生から単身で中国・カナダ・メキシコ・スペインに留学。3.11東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルストラテジー・タレントデベロップメントを経験。幼少期からの夢である日本の教育変革のためプロノイア・グループに転職。広報、マーケティング、ブランドコンサルティングなどに従事しながら、幅広い世代へのSDGs教育のため「地球を一つの学校にする」をビジョンに掲げるWORLD ROADを設立。社員社長を自ら兼任し、自分の「軸」から始まる持続可能な社会と働き方を追求する。
複数の会社・仕事をしていますが、どれも共通して「世の中の境界線を溶かす」というミッションを掲げて動いています。それは会社の境界線もです。そのため、私自身には複数の会社で動いているという意識はありません。どれも連動したひとつの活動と捉えています。
複業をはじめたきっかけは、コンサルタントとしてある企業から「副業人材を増やしたいんです」という相談を受けたことでした。私自身が実践したうえでその課題を明るみにしようと挑戦した先に、どんどん働くフィールドが増えていきました。いまは「生きる」と「働く」の境界線を壊していきたいという想いをパラレルワークの軸に置いています。
個人的に「社員社長×かけあわせ」できるよう動いており、一社で完結するのではなく、かかわっている全ての企業・会社、そしてそれぞれのパートナー企業をつなげていきたいなと考えています。
その土台となっている価値観として「お金をもらわなくてもやりたいことをやる」というものがあります。ミッションを軸に、経験を積むことで、いまのライフワークが形成されました。
パラレルプレナーのパネルディスカッション
後半は、3名の活動から生まれた価値観をさらに深堀するためのパネルディスカッション。3名ともそれぞれの視点でいまの社会の課題を捉え、それに対しての働きかけを行っているので、熱のこもったディスカッションタイムとなりました!
ー複業をはじめたきっかけは?
石川さん:
「複業をやるぞ!」と意気込んで始めたというわけではないんです。最初のきっかけは、東日本大震災のボランティアへ行ったことですね。同じタイミングで、もともとしていた新規事業の仕事が凍結になり…。時間が空いたことで、「ソーシャルなことに挑戦したいな」という気持ちが湧きました。社外の活動を始め、2枚の名刺を持ってパワフルに動く方たちと知り合い、その人たちへの興味関心から他の活動へもつながっていったんです。
そのときに出会えた方たちとは、いまでも関係性がつながっています。いま「なにから始めればいいのか分からない!」という人がいたとしたら、ボランティアからでもいいので、一歩踏み出してみてはどうでしょうか。
平原さん:
複業を始めたのは1年半前なんですけど、もともとジョンソン・エンド・ジョンソンでもいくつかのプロジェクトをかけあわせながら働いていたため、自分の中に「イントレプレナーシップ」は前々から芽生えていたと感じます。
デジタルマーケティング領域で働きつつ、ずっと「人と関わること」がしたいなと考えていて、それを周囲の人にも伝えていたんです。そして、世代別のコミュニケーションギャップを解消するための「社内マッチングアプリ」のようなものを作ることに思い至りました。お互いが持っているスキルを可視化して交換するような機能を持ったプロダクトです。その提案が社内で通り、7割をマーケティングで稼動しながら、残りの3割で様々な部門の方々と一緒に開発に乗り出しました。
そこから、いつくつかのプロジェクトを並行していくことが自分に合っていると気付けたんです。そして、転職先でコンサルティングをしていたところ「お金儲けの副業人材ではなく、軸を中心とした副業人材を増やす」という課題を請負い、自分の副業もスタートしました。
山田さん:
「自分が関心がある軸で活動してみてもいいんじゃないか」という思いが始まりでしたね。2012年4月に最初の空き家を借りたんですけど、その頃、ちょうど周囲で少子化の波が来ていることを体感していたんです。小学校の統廃合や、商店街の閉店など…。国の政策だけでは解決できない現状に身を投じることで、実際に誰が困っていて、何ができるのかを知ろうと思いました。そこで得たものを、本業である公務員の働きかけに活かそうと考えたんです。
自分が課題の現場や近くにいることで、個人の問題と、社会問題は違うことを実感しました。現在は、空き家を3軒借りています。最初に笑顔にしたい人を見据えて、事業を考えることを大事にしているんですけど、私にとってはそれが空き家の大家さんです。
ー再結合力を身につけるにはどうしたらいいですか?
石川さん:
再結合力を発揮している人に話を聞くことがいいと思います。先人がパターンを持っているので、まずはそこから学ぶことが近道。外に出ると新しい情報を取り入れることができるので、「自分はイケている!」と思い謙虚さを失ってしまうこともあります。そうすると、正しさで組織に入り込もうとするのですが、正しさだけだとうまくいきません。組織にはどこかしら矛盾があり、それを理解したうえで再突入する必要があります。それができている人に話を聞くことはとても勉強になります。
ちなみに、会社は結局「お金」と「政治」が土台にあるんです。経済的なメリットを提示できるようになれば再結合しやすくなるのではないでしょうか。また、決済権限をもっている人物の立場に立って、その人の感情に寄り添っていくことが大切ですね。
人の話をよく聞いた後は、実際にやってみましょう。会社の文化は全く違うので、やってみないと分からない部分もあります。
平原さん:
私は常に、ひとつの物事として見る、という意識を持って活動していますね。それぞれ違った会社、個人であると考えずに「互いが成長できるにはどうしたらいいか?」ということを念頭に置いて行動することで、一社だけだと到達できないところまで伸びていけるんです。
山田さん:
私の場合は、自分がやったことを事実としてアーカイブ化し、公開するようにしていました。自分らしさというキャリアや関心事を、デジタルで作ることがいまは容易な時代です。記録し、公開しておくことで、いろんな人にリンクひとつで届けられます。(山田さんのプロフィールページ:「プロフィールなのだ」)
そうすることで、距離や時間を越えて、同じ関心をもつ人とつながりやすくなりました。また相手が検索して私を尋ねてきたり、講演のオファーが届くようになりました。自分のポートフォリオを持っていることが再結合に働きかけてくれます。
ー仕事で多くの時間を要すると思いますが、家族とはどうコミュニケーションをとっていますか?
石川さん:
家族も価値観はばらばらです。家族というチームを経営チームとして考えると、それぞれのポジションや動きがあります。それをするうえで、「家族はどうありたいか?」「どこに向っているのか?」について会話するようにしています。はっきりさせておく必要はありませんが、方向性は決めておくといいですね。
家族というチームをおざなりにして、複業を始めることは難しいですし、家庭内で反発も起きます。会話ができる土台は、日頃から作っておきましょう。
山田さん:
家族であっても価値観は違って当たり前なんだ、という前提で対話するように気を付けています。あと、パートナーとしっかり会話するときには、「チェックイン」「チェックアウト」を設けて、そのときの感情をしっかり言語化して伝えるようにしていますね。
平原さん:
私はパートナーと「健康であること」だけをコンセンサスとしてもっています。それ以外はお互い自由に活動していますね。あと、我が家では、「好きなところ100」という交換日記のようなメモノートを利用して、毎日、好きなところを伝えあっています。現在、リモートワークで一緒にいる時間が多いので、ストレスも多いと思うんです。でも、毎日一緒にいても見つけられる相手の愛おしい一面も必ずあります。こういったプロダクトを利用しつつ、コミュニケーションをとれるよう工夫しているんです。
ー長期的なキャリアをどのように描いていますか?
平原さん:
いまのままを続けます。私は「複数社で働いている」とは認識しておらず、全てが私にとって、一つのライフワークです。これからどんどん副業が当たり前化していきます。
そのとき、自分という存在をしっかり発揮していれば、いろんなところから声がかかるでしょう。そして、仕事を選ぶためには「自分がライフワークにしたいものってなんだろう」という判断軸が必要になります。自分の軸や、積み重ねた経験、そしてライフワークを常に考え続けられる状態でありたいですね。
山田さん:
中長期的なキャリア、ということですが…いまこそ「いま」に集中することを心がけたいです。その上で、違和感は無視をせず、仮説を立てて行動していこうと考えています。それは、短期スパンで、ですね。
2,3年先のことを考えていても、いまの時代は、全く想像もしない未来がやってくるのが現実なので…。3か月だけでもやってみて、記録し、公開しておけば、もしかしたらその先の未来でトレンドになるかもしれませせん。
石川さん:
自分自身のキャリアは、方角感はありつつ、具体的なキャリアは描いていないです。その中で、自分自身の時間を何に投資していくか、という問いを意識してきたいです。この意識を、多くの人がもつことで日本全体がポジティブな方向へ進んでいけると信じています。
また大人が何歳になっても楽しんでいるということが未来を明るくすると感じています。ただ「転職」というカタチで働き方を変えようとすると、それまでの過去だけで判断されて、可能性を拡げられないことが多いんです。「未来を理由に未来を決められる」「自分自身を何歳からでもチェンジできるという」文化を育んでいきたいなと考えています。
パラレルプレナージャパンについて
5年前は9割以上の企業が副業禁止でしたが、いまでは副業解禁となった企業も多く、副業をすることへの認知は拡大しています。しかし、それだけではせっかくの働き方を活かしきれていないかもしれません。
本業を継続しながら新しいことにチャレンジし、経験や知識、ネットワークが得られるのなら、それらを社内に持ち帰ってイノベーションを起すことも可能です。「副業があったから実現できた!」という活動を社内でも引き起こせてこそ、副業2.0と呼べる活躍となるのではないでしょうか。
いまの日本に必要なのはそんな、「組織の力」に「個の力」が掛け算できるパラレルプレナーです。この存在を増やしたいと考えた複業家・西村創一朗をはじめとした有志10人が集まって活動しているのが、パラレルプレナージャパンになります。
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イベントモデレーター:西村創一朗(Twitter)
イベントアシスタント:青木空美子(Twitter/note)
アイキャッチデザイン:五十嵐有沙(Twitter)
執筆・編集:野里のどか(ブログ/Twitter)
最終更新日: 2020/08/06