「複業」ということばも浸透し、会社員とは別の顔を持つ人が20〜30代を中心に増えてきました。

ただ、長年企業で勤めてきた50代前後のサラリーマンで複業の存在を知る人はまだまだ少ないのが現状です。

今回対談した白石さんと龍太さんは50代にして、すでに複業として活躍されています。

複業をはじめたきっかけから複業のメリット・デメリットまで語っていただきました。

白石和彦(左):新卒から30年以上花王で働く。「NPO法人二枚目の名刺」の運営メンバー、サポートプロジェクトデザイナーとしての顔を持っている。

中村龍太(右):大学卒業後、1986年に日本電気入社→1997年マイクロソフトに転職→2013年サイボウズとダンクソフトに同時に転職+複業開始。2015 年には NKアグリの提携社員として就農。現在は、サイボウズ、NKアグリ、コラボワークスのポートフォリオワーカー。


それぞれが違う、複業をはじめたきっかけ

ーーお2人が「複業」に踏み出したきっかけは何でしたか?

白石和彦(以下、白石):僕は、社内の「50歳研修(キャリア研修)」で「今後は社内外に恩返しをしたい」と思ったことが、大きなきっかけとなりました。

子供が2人いるんですがお陰さまですくすくと育って、その時、上の子は高校生で下の子が中学生になりました。気持ちの余裕がすこしできたのだと思います。

元々社会貢献的な活動をしたくて「何かないかな…」と探していた時に、弊社がETICさんと組んで「社会起業塾」をやっていて。そこで、知り合った団体さんのプロジェクト(以下、PJ)に飛び込みました。のちに「NPO法人二枚目の名刺」が行っていたPJだと知りましたね。

現在は「二枚目の名刺」のPJデザイナーとして、デザイナーのまとめ役に従事しています。

ーーありがとうございます。龍太さんはかなり違った背景ですよね。

中村龍太(以下、龍太):そうですね。マイクロソフトからサイボウズに転職するタイミングからでしたね。僕は白石さんの「貢献」とは程遠く、正直「お金」が大きかったです。それこそ、サブとしての「副業」としてサイボウズとIT企業ではじめました。

その2年後に、サイボウズのお客様だった「NKアグリ株式会社」が、データに基づいた農業を始めるといったので、「本当にデータで農業ってできるの」と思い、人参を栽培する社員を志願して採用になったんです。

妻が農家出身で、僕は妻の実家にマスオさんをしていたので、農家とは関わりが強かったのが大きかったのかもしれませんね。


複業で得られたもの、失ったもの

ーー白石さんにお伺いしたいのですが、社内外のセミナーなどに参加しても、実際に複業としてアクションを起こす人って少ないですよね…?行動を起こせた理由はなんですか?

白石:PJがとても楽しくて、終了後は「PJロス」の様な感覚になっていました(笑)。ちょうどその頃、「二枚目の名刺」でPJデザイナーを募集していて。「僕が得られた楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたい」と思い、運営メンバーとして参加することになりました。

入ってみると集まった仲間は、「ただただ、世の中をよくしたい」という想いで入っている人ばかりで、その雰囲気がとても気に入っています。

ーーお二人とも、はじめた背景や動機がまったく違いますね。複業をされてみて、複業で「得られたこと」と「失ったこと」って何でしたか?

龍太:もう7年ほどやってきているんですが、シンプルにお金は減りました。本業とプラスしても前職の給料には届きません(笑)。

ただ、人との繋がりができたり、スキルが身についたのは本当にプラスです。今までなかった農業スキルが身につきましたし、今では農家さんや企業さん向けに「IoTと農業」について登壇させていただく機会も増えました。

ーーありがとうございます。白石さんはどうですか?

白石:僕は失ったものはないですね。一方で得たものは「人との繋がり」です。組織や立場を超えて、新しい社会を創るという同じ目標に向かって、切磋琢磨しあえるメンバーがいることがとても幸せです。

また、メンバーから学ぶこともたくさんあります。メンバーは年下の方が多いんですけど、物事の考え方や、新しい価値観に触れられるなど、同世代どうしからでは得られない刺激があって、毎日が学びですね。


50代で複業はレア?本当にリアルな定年後の話

ーー僕の周りは50代の方が少ないのですが、お二人はいかがですか?

龍太:僕は、50代がほとんど周りにいません。サイボウズは大手企業に比べて平均年齢が若く、僕は数少ない最年長のグループなんです。

白石:弊社は、50代はとても多いです。定年を迎え、再雇用で働かれている先輩方もたくさんいらっしゃいます。

ーーなるほど。多くの方は、定年後にどうしていきたいんでしょうか?

龍太:僕も気になっていました。

白石:私の周りでは、定年後に再雇用されて会社に残られる方が多いようです。ただ、多くの方が「定年後の道筋(やりたい事)」は明確でないような気がします。あくまでも「肌感」ですが。

定年65歳から70歳の時代になりつつある今、多くの企業が「人財の有効活用」を考え始めています。働くシニア自身も「再雇用」だけでなく、「転職」や他の選択肢も考えておくべきだと思いますね。

龍太:転職もですか。

白石:早期退職され他社に転職される方もいます。ただ、僕ら世代の多くが「これからどうなっていくんだろう…」と悶々としていますよ。でも、なかなか周囲に相談しづらいですしね。

「再雇用や転職だけではなく、複業という生き方がある」。これを伝えるだけでも、視野が広がっていくと思います。僕らがロールモデルの1人になれればいいですね。


人生100年時代の今、50代から複業をはじめる恩恵とは?

ーー今、人生100年時代と言われているじゃないですか。ご自身の経験から、複業のメリットとデメリットって何だと思いますか?

白石:正直、100人100通りの生き方がある中で、べき論で語るのってむずかしいんですよね。なので、あくまでの自分の経験ベースでお伝えしますね。

僕は人生100年時代と言われていても、健康寿命は75歳前後だと考えています。

その限られた時間の中で、自分のやりたいことに全力でコミットできるのが、複業の大きなメリットだと思いますね。

また、色んな人と会ったり刺激を受けたことが、のちに世の中への貢献に繋がると信じています。それは複業だからこそ、より叶えやすいのかなと。

ーーたしかに、複業だからこそ得られる生き方ってありますよね。龍太さんはどうですか?

龍太:メリットは、自分の居場所の肩慣らしができることです。

居場所って、1つに絞る必要ないんですよね。会社にしがみついている人ほど「居場所がなくなることへの恐怖」が半端ないと思うんです。だからこそ、自分が心地いい環境を複業で見つければいいのかなと。

まあ、付き合う人の幅が広がる分、人間関係のわずらわしさが増えたりしますけどね(笑)。それが唯一のデメリットですね。


アクションを起こすためにおすすめな「事実を知ること」と「一次情報を取りにいくこと」

ーーでは最後に、「複業の第一歩」ってどのようにステップを踏めばいいと思いますか?何から手を付ければいいのか、ピンときていない人が多いと思うんです。

龍太:僕の場合は「まずは事実を知ろう」とお伝えしたいですね。

意外と多くの方々が、数年後の未来を知ろうとしていなくて、もったいないなと感じています。例えば、退職金や年金を把握していません。そのため、数年後の自分や今の自分の棚卸しが必要です。

50代のうちから「事実の言語化」をおすすめしたいです。具体的には、年収・年金・退職金・生活費・資格・できるスキル・社内外の人脈など。

Excelでまとめておくと可視化できるので、不安に感じ行動するかもしれませんし、もしくは、安心できるかもしれない。つまり「現状を感じること」が大切です。

ーー事実の言語化大切ですよね…。白石さんはどうですか?

白石:私はまずはアクションを起こすことだと思います。

具体的には、興味のあるセミナーに行ってみたり、興味のある人と話すでもいいと思います。ネット時代の今、ググればたくさんの情報で溢れていると思いますが、一次情報を取りに行く(アクションを起こす)ことをおすすめします。

くわえて、常に「意識を高く持って行動する」こと。そこから巡り会うことってあると感じます。実際に僕は、花王の社会起業塾に足を一歩踏み入れたことで、今に繋がっているので。

 

取材・編集:西村創一郎
文:ヌイ
写真:
デザイン:矢野拓実

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