近年、人材育成や社内改革の観点から、イントレプレナー=社内起業家を育成する企業が増えています。また、パラレルワーク(複業)として社外で起業したり社外団体を設立したりする人も少なくありません。

そんな中、パラレルワークで得たスキルや経験をイントレプレナーとして本業に活かし、社内でイノベーションを起こそうとしている人もいます。それが、今回お話を伺ったパラレルプレナー・及部 一堯(およべかずたか)さんです。

及部さんは、NTT西日本(西日本電信電話株式会社)で新規事業を立ち上げながら、社外ではエンターテイナーとして様々な場所でパフォーマンスをしたり、関西大企業有志団体ネットワーク「ICOLA」の共同代表を務めたりと、社内外問わず幅広く活躍。

そこで今回、「パラレルプレナーの時代 vol.1」として、パラレルプレナーになったきっかけや社内外での活動を通して得た学び、そして今後チャレンジしたいことについて話していただきました。

 

パフォーマンス活動を通して社会貢献への意識が芽生えた

ー 及部さんはNTT西日本に勤めながら、プライベートでも様々な活動をなさっていますが、社外でのパフォーマンス活動を始めるきっかけは何だったんですか?

もともと、NTT西日本でバスケットボールの実業団選手をやっていたんですよ。でも、あるとき足を負傷して入院することに。そこで、自分が周りの人からどれほど支えられているのか、ということに気付いたんですね。その感謝を伝える形として音楽に目覚め、シンガーソングライターになりました。

ー シンガーソングライターもやりつつ、マジシャンとしても活動されていたんでしょうか?

いえ、はじめは「世界中の人に元気と夢を与える人」を目標にライブを開催して歌っていたんですが、介護施設でボランティア演奏をしていたとき、自分の演奏が全く喜ばれていないことに気付いたんです。当時の施設の方々には、耳の遠い方もいらっしゃったからです。

そこで「目でも耳でも楽しんでいただける人を目指そう!」と考え、マジシャンやパフォーマーとしてのスキルを身につけることにしました。

ー なるほど。それは土日など本業以外の時間で活動されていたわけですよね。本業に対するモチベーションはどうだったんでしょう?

入社したときは法人営業の部署に配属されたんですが、その頃に怪我でバスケができなくなってしまい、仕事に対するやる気がどん底になってしまいました。「バスケをするために会社に通う」という感じでしたので。

ー しかし今ではイントレプレナーとして社内でも精力的に活動されている。どんなモチベーションの変化があったんですか?

怪我で入院したあと、音楽やパフォーマンスに出会ったことで「社会に貢献する」という外での活動が増えましたが、会社に対するモチベーションは相変わらず低くて、退職未遂を繰り返していたんですね。パフォーマンス活動で年配の方に喜んでもらえて直接的な喜びを感じていたのに対し、会社での仕事は社会にとってどんな意味があるのか分からなかった。

いっそ自分で会社を作ろうかとも考えました。だけど、ふと立ち止まって考えてみたとき、社会にインパクトを与えられるのは大企業のほうなんじゃないかと気付いたんです。会社を辞めて起業するより、大企業にいながら何かをやったほうがリスクも少なく、社会的な信用も得やすい。

それに、自分がイントレプレナーとしてNTT西日本で事業を立ち上げて成功させることで、自社だけではなく、他の大企業の価値観も変えられるきっかけになると思いました。それが、日本経済の活性化に繋がるんじゃないかというように、モチベーションが変化していきました。

ー そのようにモチベーションが変化したきっかけは?

営業系の部署から、ビジネスデザイン部という新規事業創出の部署に異動したことですね。営業のときはあくまで自社商品を売っていく立場だったので、新しいことを考えて自分が世の中に貢献できるものを売っていくというわけではなかった。

しかしビジネスデザイン部は、「世の中にいいものを提供する」ということを考える組織でした。そこで経営的視点やビジネスの作り方といった、自分にはなかった知識を教わるようになり、ここでもっと学べば世の中を良くできるんじゃないかと思うようになったんです。

 

新規事業創出の部署へ異動したことが人生の転機に

ー ビジネスデザイン部に異動されてからは、主にどんなお仕事をされていたんですか?

新しい事業を作っていくことと、新しい事業を作るための戦略を考えることの2つを主に担当していました。2年目までは、決められたプロジェクトにアサインされて仕事をしていたんですが、3年目に大きな出来事があって。それがパラレルプレナーとして活動するきっかけとなりました。

ー 大きな出来事とは?

レクリエーション介護士の第一号になったことです。私は部署を異動してもエンターテイナー活動を続けていたんですが、ある日、同じ部署で違うグループの上司が介護施設での活動を見にきてくれて。そこで「及部のやっていることは素晴らしい」と、レクリエーション介護士を作ろうとしているベンチャー企業を紹介してくれたんです。それで「ぜひ第一号に」と。

第一号ということは、日本の中で一番レクリエーション介護について知っているということなんですよ。だから、社内でレクリエーション介護についてのビジネス提案をしたときも、質問には全て答えられた。それが強みとなって、ベンチャー×NTT西日本で介護レクビジネスを成立させることができたんです。

ー 本業とは関係なかったはずの複業が、結果的に本業に活かせるようになった。こうしてパラレルプレナーに繋がっていったわけですね。提案した介護レクビジネスは上手くいったんですか?

いえ、事業拡大の観点では成功と言えるほどではありませんでした。サービスは2015年にリリースしたんですが、その年に私が他社へ出向することになってしまって。事業拡大フェーズで色々とやりたいことがあったんですが、どれも実現させることができなかったんです。

ただ、自分でゼロから発案してリリースまで持っていったことで、社内でのプロジェクトの回し方を学ぶことができましたし、プロジェクトリーダーとして全体を俯瞰して見るスキルも身につきました。その点においては、今後の事業創出における大きな要素を学んだかと思います。

ー 結果的に、及部さんの糧になったわけですね。

すごく糧になりましたし、次のステップに向けていい経験を積むことができたなと感じています。介護レクビジネスを一緒に立ち上げた会社とは、また別の取り組みも検討中ですので、継続的な関係を築くことができたのも良かったですね。

 

出向先で自分の視野の狭さに気付き有志団体を設立

ー 2015年から2年間、大手飲料メーカーへ出向。その間はどんなお仕事を?

はじめは、和歌山県内のスーパーマーケット営業チームのリーダーをしていました。スーパーの売り場面積を増やすべく、リーダーとして現場の人たちをサポート。その後、近畿地区全体のデジタルマーケティングを考える事業に移って、オウンドメディア戦略の立案と実行を担当していました。あとは、全国の飲食店の盛業支援なども行っていましたね。

ー 出向先で、印象深いエピソードはありましたか?

リーダーになった最初の半年で、もともと下位だった和歌山の営業成績を全国一位にできたことですかね。当時いたメンバーは、能力はあるもののモチベーションはあまり高くなくて。そんな彼らが、だんだん「及部のために頑張ろう」と思ってくれるようになり、モチベーションが上がっていったのが印象深かったです。

ー モチベーションの高くないメンバーを一致団結させるために、何か意識されていたんでしょうか?

まずは、メンバーの方々に自分が過去やってきたことを伝えつつ、「何のために働いているのか」をヒアリングしました。すると、本業だけではなく、プライベートでの困りごとも教えていただけるようになり、親身に相談に乗ってサポートするといったことも意識していました。そうしているうちに、みんなが仕事でも頑張ってくれるようになっていったんです。

ー マネジメントにおいて、仕事面だけでなくプライベート面のサポートも大事だと言われますが、マネジメント側に引き出しがないと役に立てないことが多い。そんな中、精力的にプライベートの活動をやっていたからこそサポートができてメンバーのモチベーションを上げることができたわけですね。

そうですね。私がもし、ひとつの会社のことしか知らなかったら適切なサポートができなかったと思います。そうすると、部下はもうプライベートな質問をしなくなってしまう。だから、プライベートなことも相談したくなるようなマネージャーやリーダーを目指したら、部下のモチベーションも上がり、部署としてプラスになるんじゃないでしょうか。

ー 他に、出向中に何か気付きは得られましたか?

自分が自社のことも他社のことも全然知らないんだ、ということを痛感させられましたね。出向先でNTTグループのことを聞かれても全然答えられないし、出向先では文化や制度も全く違った。他社のことを知ることが、各企業の改革には最も重要なことだと気付かされました。

そこで、出向中に「NTT-WEST Youth」というNTT西日本内部のコミュニケーション活性化を目的とした有志団体を立ち上げたんです。また大企業同士のコミュニケーションをとることが大切だと考え、2017年には関西の大企業を活性化させるために「ICOLA」も設立。社内外コミュニケーションやスキルアップ、新しいことへのチャレンジなどを実施してきました。

ただ、有志団体に集まる人ってモチベーションが高いし熱意もあるので、どんどん人脈や知識が増えて、最終的には会社を辞めてしまう場合も多いんですよね。NTT西日本の成長に不可欠なのは、モチベーションの高い人たちが居続けたい会社になること。だから、社員に新しい挑戦ができる環境を作らなければならないと思い、出向から戻ってすぐに「HEROES PROJECT」を立ち上げました。

 

HEROES PROJECTで社内イノベーターを増やす

ー 「HEROES PROJECT」について詳しく教えてください。

「HEROES PROJECT」とは、NTT西日本に所属している社員のための事業創出支援プロジェクトです。挑戦できる環境を作ることがこのプロジェクトの目的で、各地域支店の現場社員が新しいことにチャレンジできる環境作りのために動いています。

具体的には、各地域の支店長に「この支店全体で新たな事業を創出していきましょう」と呼びかけて、支店長をトップとしたコミュニティを作ってもらい、現場社員に参加してもらうようにするんです。あとは、新規事業の作り方を教える講義やワークショップ等を開催したり、事業を作るために伴走したりもしています。

ー 「HEROES PROJECT」に参加する社員の方々には、どんなことを期待していますか?

まずは社内と社外、両方の知識を身につけてほしいな思っています。社内の人脈・経験は持っていて当たり前だけど、社外でのプラスアルファの人脈・経験を持っている人は少ないので、社内においても周りと違うフィールドで戦うことができるんです。

そのようなプラスアルファの人脈・経験は、複業や外部の活動を通して得ることができる。「HEROES PROJECT」では、社内と社外の両輪で、自分の個性を活かした成果を残していってほしいですね。

だから私は、行動することの大切さを伝えています。社内しか見ていない状態で、新しい事業を思いつくのはなかなか難しい。外部で行動して経験・知識・人脈を作ることが大切なんです。

ー 及部さん自身がイノベーター、パラレルプレナーとして活動するのみでなく、同じような人を増やす・応援する活動も「HEROES PROJECT」として始められたんですね。

 

夢を実現させるためには行動実績を作ること

ー 行動することが大切なのは分かるのですが、これといった原体験ややりたいことがないという人は、具体的にどう動き始めたらいいんでしょうか?

まずはイベントを企画して実行することをオススメします。私自身も、シンガーソングライターになったときは自分でイベントを企画してライブを主催していたんですよ。まだ演奏も歌も下手で、出演できる場所なんてなかったので(笑)そうやってイベントのターゲット層や企画を考えて実行し、収支計算までやることで、経営やプロモーション、マーケティング戦略などを学ぶことができました。

初めてのイベントは、飲み会でも構いません。ただし、ターゲットや目的を考え、どういう告知文を作るのか、そして収支をどうやって黒字にするかというところまで考えるのがポイント。さらに、どうやったら参加者が満足してくれるイベントにできるかを考えるんです。そうすることで、お客様が喜んでくれる企画を作ることができるようになります。

もし原体験ややりたいことがなければ、何でもいいのでイベントを作ってみましょう。そして、赤字で終わらせないこと。黒字になるまでやって初めて学べることばかりですので。何かひとつ行動するだけで、絶対に人生変わりますよ。

ー 説得力のあるメッセージですね。仮にやりたいことがあっても、なかなか実現が難しいと感じる人も多い気がします。

やりたいことを実現させるためには、人脈を作ることがとても大事になってきます。人脈というのは、ただ名刺交換しただけではなく、信頼できる人や教えてくれる人、自分を支えてくれる人のことです。

そんな人脈を作るためには、以下の4つのポイントがあると考えています。

①分析
②行動
③志の共感
④行動実績

この中でも特に、行動実績がすごく重要です。「世界中の人に元気と夢を与えたい!」と言っている人に、「では、そのために何をしてるの?」と聞くと、「何もしてない」と答えたら、がくっとくるでしょ?(笑)やりたいことを伝えたとき、すでに何か行動している実績があれば、興味を持ってもらえるし応援しようと思ってもらえます。だから、若いうちにいかに行動実績を作るかが、やりたいことを実現させるコツ。

アイデアと違って、行動実績はそう簡単に作れません。だから誰かに横取りされるようなこともない。最強の武器です。

ー 何よりまずは行動して実績を作ることが大切なんですね。最後に、及部さん自身が今後チャレンジしていきたいことを教えてください。

まずNTT西日本の社員としては、今考えている事業を成功させることと、新しい事業を作れる人たちを増やす取り組みを推進していきたいですね。社外の活動においては、若い世代のマジシャンを増やしたいです。私自身、パフォーマンスを通じて人を楽しませるだけでなく、人との繋がりなど様々なものを得ることができたので。

また、プライベートでは今、中小企業をサポートするための会社を作っている最中なんです。だから自分自身が中小企業について学んでいきたいですし、中小企業のサポートにも力を入れていきたいと思っています。

私の目標は「世界中の人に元気と夢を与え続ける人」なので、今後もNTT西日本に勤めながらパフォーマーを続け、有志団体で大企業を活性化していく。そして中小企業のアドバイザーや顧問としても経済活性化を推進できるよう活動していきます。

ー 社内外問わず、今後もパラレルプレナーとして活躍の場が広がりそうですね。ありがとうございました!

 

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取材:西村創一朗
写真:Asami Izuka
デザイン:矢野拓実
文:ユキガオ

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