今回は、運用型広告コンサルティングを専門に行うアナグラム株式会社にインタビューをしました。

組織拡大に舵を切って、本格的に採用を始めた当初から自社ブログを通じて採用活動を実施。今なお、中途入社するメンバーのほぼ100%が自社ブログの読者であるという同社の、採用マーケティングについて,、アナグラム代表の阿部さん、人事の高梨さん、そしてブログ経由で入社をされた砂川さんの3人にお話を伺いました。

組織化に向けた本格採用は個人ブログでの募集が始まり

―まず、はじめにアナグラム株式会社について教えてください。

阿部 リスティング広告やFacebook広告など運用型広告のコンサルティングを行っています。もう10期目になりますが、はじめは一人でやっていましたので、本格的に組織として運営し始めてからは3〜4年です。

―採用を本格的にしていこうと思ったきっかけはありますか?

阿部 ありがたいことにクライアントからのご相談や依頼が増えていった頃、受け切れない案件をお断りしていた時期があり、僕の師匠に諭されたんです。「阿部くんがやっていることって本当に正しいの?」って。当時の僕は自分の周りさえ良ければそれでいいというスタンスで少数精鋭で質が高い仕事を提供したいと考えていました。そうしたら、師匠から「それを世の中のスタンダードにしなさい」って言われたんですよ。これが目からウロコで。そんな発想がなかった僕は、トンカチで殴られたような感覚でした。その時にまだ会社は僕を入れて3人くらいしか社員がいなかったのですが、この出来事を契機に人を増やそうと意思決定しましたね。

―アナグラムさんは採用手法もユニークですよね。

阿部 基本的にエージェントや求人媒体経由でうちの会社を選んでくれる奇特な人はいないと思っていたので、僕の個人ブログで求人を募集したのが始まりですね。嬉しいことに最初の呼びかけで25人くらい応募がありました。これだけで来るものなんだって驚きましたね。なので、最初はお金をかけて採用するという発想はそもそもなかったですね。

―当時のブログでは、どういうことを発信していたのですか?

阿部 基本的にリスティング広告だけだったので、そのことをひたすら書き続けていました。3年くらい休まず毎日更新。

―そうすると3年間で1000本の記事!?

阿部 そうですね。ざっくり1000本。運用型広告を担当するマーケターの方には、一通りは知っていただいている状態にはなっていたのかなと思います。

―最近は、オウンドメディアが採用マーケティングや採用広報にとって重要だと言われたりしていますが、すでに1000記事もの蓄積があったからこそ応募につながっていたのですね。 

阿部 うーん、当時は少し時代が違いましたけど。昨今はオウンドメディアも1回バズればそれで認知が取れるチャンスがありますが、当時はツイッターが今ほど盛り上がってなくて、SNSでバズることがそもそもなかった。あの頃だと代替手段ははてブかSEOでしょうか。今は圧倒的にツイッターのほうが強いですよね。 

―ブログの話について、最初は阿部さんの個人ブログで発信されていたのを、会社の公式ブログに移管したタイミングはいつでしょうか? 

阿部 2014年3月からですね。個人ブログだと仕事の依頼が僕個人に来てしまうんですよ。採用を強化して徐々に社員も増えてきたことで、次第に全部のアポに僕が行けなくなってきて、別のメンバーに行ってもらっていたのですが、クライアントから「えっ、社長は来ないの?」って言われたそうです。代わりに行ってくれたメンバーは良い気持ちしないですよね。

そこで、これからは個人ブログではなく、会社の公式ブログに移行すべきと判断して移管しました。僕個人への仕事の依頼ではなくなるのに、ざっと3年かかりましたが、正しい判断でしたね。

ブログの目的は採用。採用ターゲットの第一想起を狙って役立ち情報を発信

―それで、公式ブログ化したんですね。今は編集部が社内におられるとか。

阿部 はい。はじめは僕と1号社員とで手分けして記事を編集していたんですが、さすがに手が回らなくなってきて。今の編集長が入社してくれたタイミングで編集部を組織として設けて一任しました。2017年頃ですね。その編集長は、もともと広告運用の経験があって、運用型広告のプロダクトの歴史に造詣が深いですし、マーケターとしてもお任せできる。自社ブログは専門知識を正しく世に広める意図もありますし、プロダクトの歴史を知っている人でないと、正しいことは発信できないので実務経験がある彼が編集長をしてくれて心強いです。いまブログの編集をしてくれているメンバーも、基本的にはみんな広告運用の業務と兼務でやっています。

―記事も、社員の皆さんが担当して書いているんですよね?

阿部 はい、総務経理を除く約45人全員書きますね。評価制度に入れていて、原則としては半期で3本以上書く決まりになっています。2ヶ月に1本なのでそこまで負担ではないはずなんですが、それでも多いって言われています。

―評価制度に記事を書くことを入れている企業は珍しいですね。

阿部 それぐらいアナグラムにとってブログの記事は重要ですし、何より書いてほしいですから。うちの会社には営業がいないので、テレアポしない代わりにブログ書いてねという約束です。入社の条件になっていて採用ページにも細かく書いてます。

弊社は、営業ゼロ、下請けゼロで直接お取引をさせていただく座組とさせていただいています。そうすると自分たちで情報発信することが一番効きます。そして、そもそも発信するプロセスで自分自身が成長するというのも実感しています。記事にダメ出しが出ることもそうですし、実際に投稿した時の反応でも学びはあります。ブログの記事を発信することで、マーケターとしてマーケティング感覚を養うと行ったところでしょうか。

―まとめると、ブログを書き続けている目的は「営業(案件獲得)」と「採用」の2軸があるということですね。

阿部 それでいうと、断言すると「採用」がメインですね。

―何名くらい採用しているのでしょうか?

高梨 直近1年だと、月に1人程度。年間で10人超ですね。2018年卒から本格的に新卒採用も始め、今年4月には新卒も5人入りました。

―そうなんですね。中途採用ですと、どこを経由して応募がありますか?

高梨 アナグラムブログを知った上で、自社サイトだったり、DMいただいたりが多いですね。求人広告経由もありますが、ブログを見ていましたと言っていただける方がほとんどです。転職を考えた時に第一想起にうちの会社が入っているかが鍵だと思っていて、そこはクリアーできてると考えています。

阿部 ブログの狙いはほぼそれです。リスティング広告など運用型広告を経験している方が転職を考えるとき、代理店出身者であれば事業会社に行く人や他の代理店へ行く人など、いろんな選択肢があると思うんですが、この仕事が好きなんだったら、うちの会社を第一想起してもらえるような、ここだったら好きなことができるんじゃないかって思ってもらえるような、そんな気持ちでブログを書いています。第一想起にどんだけ入れるかっていうのは、最初からかなり意識してますね。 

―第一想起に入るために、コンテンツとして意識していることはありますか?

阿部 正しい情報を正しく届ける。それが一番です。会社のことを書く場合も嘘を書かないとか。面接でも、なんでも聞いてくれ、なんでも答えるって必ず言うようにしています。入社した後に思ったのと違うってうのが嫌なんです。口コミサイトなどにみんな書ける時代ですから、正直にオープンにした方がいいと思っています。

―アナグラムブログで特徴的なのは、会社の福利厚生や社員インタビューなどではなく、広告運用などのお役立ち情報が多いですよね。

阿部 どこかの会社で福利厚生の情報として「アーロンチェアがあります」って書いてあったんですが、そもそもアーロンチェアって福利厚生なの?って初めて気付きました。うちの会社もアーロンチェアだけど、自分たちで福利厚生って気づいてないって言う…。 

―採用ターゲットが運用型広告をやってきた人となると、その方々が知りたい情報ってなんだっけというところから逆算すると、ノウハウなどのお役立ち情報が結果的には採用につながるというのもありそうです。 

阿部 そうですね。もちろん福利厚生でもいいんですけど、それだけに興味を持ってもらってもミスマッチになる可能性もあります。事業のコアである、広告運用の役立ち情報から繋がっていければいいのかなと思っています。

ブログからファンに。「転職するならアナグラムがいい」

―アナグラムブログを見て数年越しで転職されたという砂川さん。初めてアナグラムブログを見たのはどういうタイミングだったのでしょうか? 

砂川 2年半前ですね。前職で初めて運用型広告の担当になってくれと言われたのですが、マーケティングはやっていたけど広告運用だけはやったことがなく、当初は何も分からないし、社内で先輩もいなかったのでとにかく検索しました。その時、アナグラムのブログがよく出てくるなって思って、初めて認知しました。

それから、リマーケティング広告でバナーが目につくようになり、「広告が好きだ」ってポジティブなバナーを見かけたんですよ。すごく興味を持ちました。

一般的に転職のバナーって「こんな会社嫌だ」とかネガティブアプローチが多いのですが、プラスなイメージがすごく共感できました。そこからアナグラムで働く可能性について興味を持って、2年半ですね。 

―アナグラムのブログをお役立ちサイトとして活用している中から、どのような経緯で転職を考えるようになったのすか?

砂川 前職のことは好きで、BtoBマーケも好きだったので、今年の1月まで一切転職する気がなかったんです。ただ、1〜3月の大繁忙期を超えたタイミングで、次に何をやるのか?入社して繁忙期を3回経験したので、次は違うことをやってみたいと思いました。過去の自分を超えるのは難しいことですから。なら、後輩に成長してもらいながらその山を越えてより良いものにしてもらって、自分は抜けた方がいいのかなと思いました。

私は、他にSEOとか違う領域をやるかも考えていたんですけど、その時アナグラムのことを思い出して、BtoBではなくBtoCもそうですし、BtoBでも違う商材やビジネスモデルを扱ってマーケターとして更に一歩前進してみたいと思ったんです。でも、広告代理店にいきたいではなく、アナグラムにいきたいって考えていました。

―広告代理店に行きたいからアナグラムではなく、いきなりアナグラムだったんですね。実際にどのように応募したんですか?

砂川 代表の阿部さんや人事の方とは既にツイッターでも繋がっていましたが、Wantedlyで連絡しました。まずはカジュアル面談しましょうと言われて履歴書が要らなかったのですが、履歴書がないと話のとっかかりがないので、これまでの経歴を「note」にまとめて、ツイッター見てくれていたら事前に読んでくれるかなって期待して面談に行きました。

阿部 僕も人事ももちろん読みましたね。事業会社のインハウスマーケターという印象が強かったんですが、noteを拝見したら学生時代にカフェ経営のご経験があったりかなりユニークで、何歳か分からないねって話題になりました。こういう「ん?」って思われるのは大事ですよね。会ったときに詳しく聞きたくなったから。笑

砂川 私はマーケティングが趣味レベルで大好きなので、「note」もどうしたらたくさんの人に読んでもらえるかとか、フォロワーを増やすにはどうすればいいかなどはずっと考えています。アナグラムはマーケティングがうまいなって思っていて、転職するときも絶対に自社のマーケティングが強いところとが良いと決めていたので選びました。ブログを始めなんでも発信してくれているのですが、でもベールに包まれているというか、肝心なところは書かないみたいな。そのような、気にさせるバランス感覚もうまいと思います。 

―選考はトントン拍子に進んだんですか?

砂川 いや、大変でした。そもそも、まず社長の面接が通っているのに、さらに3:1の面接が2回もありました。

阿部 うちの会社は採用も仕事も、原則、挙手制なんです。採用では選考中の人を全社に共有して、「会いたい」「この人と仕事やりたい」って手を挙げた人が会える仕組みです。3:1が2回の、合計6人がMAXですが。仕事も、基本的にはこのクライアント様のこの仕事をやりたいって手を挙げたらやるという形です。

―MAX6名の社員が全員、OKとならないと採用されないのですか?

阿部 いいえ。この人と働きたいという人が1人でもいれば、よほどのことがない限りは採用となります。

―その場合は、面接してぜひ採用したいと言った社員のチームで働くことになるんですか?

阿部 そうですね。基本的に手を挙げるのがルールですので。面接担当も現場のチームリーダーやメンター(次期チームリーダー候補)になります。

砂川 人数にも圧倒されましたが、面接自体も難しかったですね…。私の業務の都合で、面接を朝8時からにしてもらったのですが、ウォーターサーバーをオンラインでどうやって売りますかとか、ケーススタディ的なものがばんばん聞かれて早朝から頭をフル回転させて回答しました。ただ、面接を通して考え方が素晴らしいと思ったマネージャーの方の元でいま一緒に働けているので所属先を教えてもらった時は本当に嬉しかったです。面接のフィードバックを人事の方からちゃんといただけたことも嬉しかったですね。

大事なのは、嘘をつかないこと。ネガティブな情報もオープンに発信

―今後、採用でチャレンジしていきたいことなどはありますか? 

阿部 地方大学出身者の採用を強化したいですね。新卒は長期インターンをマストにしていたので、東京の出身者が多いんですが、果たしてそれがいいのかと思っています。例えば、スマホをいつ使うかという問いに対して、東京の人は電車っていうんですよ。でも地方の人は電車にあまり乗りません。全国の企業さまの運用型広告をお手伝いするマーケターとして、東京のライフスタイルしか分からないのは良くないですから。地方の大学を出た人も採用していきたいですね。

高梨 広報的観点だと先日、復帰したばかりの初めてのワーキングマザーがいるので、産休育休周りも今後は紹介していきたいですね。彼女は休職10ヶ月で復職したのですが、全額年収保証をさせてもらいました。アナグラムで産休を取る方が出たのはこの方が初めてだったので、「何が良いかは正直わかっていないけれど、一緒にひとつひとつ制度を固めてきたい」と彼女とは話していて、そういう働き方や思考性については積極的に発信していきたいと考えています。 

―最後に、自社の発信を強化するのがトレンドになっていますが、発信をする際に意識したほうが良いことがあれば教えてください

阿部 嘘を書かないということ。どんなに会社のいいことを書いても、従業員が「またなんか言ってるよ」ってしらけていたら台無しです。うちの会社では、人が辞めていることも書いています。個人がいくらでも発信できる時代なので、調べればどうせバレますから。法の中であることは前提ですが、ブラックなら「ブラックです!」と正直に言っても良いと思いますよ。ブラックで働かしてくれる会社も今ではなかなかないので、ブラックに働きたい人が集まってすごい熱量の会社になるかもしれません。

<取材:西村創一朗、撮影:鵜ノ澤直美>

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう