僕たちミレニアル世代にとって、伝統的で画一的な価値観は、少し窮屈に感じることがあります。限られた選択肢から選ぶより、自分たちが信じる価値観を共有したい。

今回HARESが取材するのは、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さん。21歳、東京大学に通う現役の大学生です。

んな龍崎さんが9月にオープンする「HOTEL SHE, OSAKA」は、ホテルの常識を捉え直した”ソーシャルホテル”。内装は港町を彷彿とさせる青レンガを基調とし、ビジュアルモデルには、雑誌「装苑」「NYLON」で活躍する青文字系モデルのるうこを起用。彼女が銘打つ”ソーシャルホテル”には、いたるところに、ホストとゲスト、ゲストとゲストの交流を促す雰囲気づくりがみえます。

彼女がレガシーなホテル業界に提唱する、新たな選択肢とは。龍崎さんの人生のストーリーと、“ジャケ買い”されるホテル「HOTEL SHE, OSAKA」にかける想いを伺いました。

10歳で培った、龍崎翔子の「ホテル観」。

ー「ホテル経営をしよう」と思い始めたのは、いつ頃だったのでしょうか?

初めてホテルに興味を持ったのは、小学生の頃。家族で行った1ヶ月のアメリカ横断旅行がきっかけです。旅行の大半は退屈な移動時間だったので、後部席で代わり映えしない景色を眺めながら、夜に泊まるホテルを唯一の楽しみにしていました。

でもいざ夜になり目的地に到着すると、どこのホテルも同じような外観と内装ばかり。ホテルで過ごす時間は、旅をしている日中の時間と同じくらい長いのに、そこに楽しみがないんです。万人受けするように最適化されたホテルの数々は、“個性”をなくしているようでした。

10歳の私がたどり着いたのは、宿泊するお客様が「私がこのホテルを選んだのは、こういう理由です」と“意思表示”ができる世界観でした。それからずっと、将来どんなホテルをつくるのかを考え続けてきたんです。

ーそれがホテルの原体験”だったんですね。大学に入学する前から、「学生のうちにホテルをつくる」と決めていたのでしょうか?

幼い頃から経営に興味を持っていたので、「学生時代にホテルをつくる」と決めていました。

東京大学に入学してからはホテル経営に必要な経験を積もうと思い、いわゆる“意識の高い”界隈に顔を出していたんです。貿易ビジネスやアイドルのプロデュースに携るなど、さまざまなことに取り組みましたが、そもそも「やりたい」と思ってやっていないので失敗ばかり。

「やっぱり自分にホテルを経営するのは無理だ」と自信を失ってしまったんです。元手となる費用も経営に必要な固定費も、とても大学生に払える金額ではないし、私にはホテル経営の知見もありません。現実的に不可能だと思いました。

そこからは堕落の日々です。授業をサボり、サークルに通うだけの毎日。でもやはり、「ホテル経営を夢見て東京に出て来たのに、私は何をしてるんだろう」と心のどこかで不甲斐なさを感じていました。大学へ自転車で向かう途中に、思わず涙が溢れたこともありました。

挫折の先に見えたホテルの“本質”ー19歳、富良野にホテルを開業

ーホテル経営への想いが再燃するほどの、大きなきっかけがあったのでしょうか?

ホテルを初めて開いた2014年は、Airbnbやゲストハウスが注目され始めた時期。良い意味で、私の「ホテル観」を覆されたんです。

それまで私は、ホテルはアメリカの「トランプタワー」のような“建物”のことを指すのだと思っていました。でも、Airbnbの流行を通して、「家の一室に泊まって旅行する」ことが当たり前になりつつあります。

つまり、ホテルの“本質”がどこにあるかを考えると、「遠くから来た人たちが、一晩安全に過ごせること」なんです。その定義をクリアすれば、自分もホテルをつくれる。

当初はシェアハウスを友人とつくり一部屋を貸し出すことを考えていましたが、物件を探しているとき、富良野に継ぎ手を探しているペンションを見つけました。ボロボロでしたが立地は良かった。

そうして開いたのが、私が初めてプロデュースしたホテル「petit-hotel #MELON富良野」です。

試行錯誤のなかで見出した、旅行者の“潜在的ニーズ”

ー”ソーシャルホテル”というコンセプトは、どこから着想を得たのでしょうか?

今だから言えることですが、正直、ホテル経営に関しては“分からないことばかり”だったんです。

私たちのペンションは、贅沢な食事や温泉を提供することはできません。しかし立地はいいので、たとえ設備が限られていたとしてもリゾート価格でサービスを提供しなければいけない。

どうすれば満足いただくことができるのかを試行錯誤し、ホテルのレストランで“無料のバー”を開いてみたんです。富良野には深夜まで営業している娯楽施設が少ないので、観光客は夜になると手持ち無沙汰になります。

するとある日、バーがやけに盛り上がっている日がありました。しかもよく見ると、一緒に来たわけではないお客様同士が話している。「実は家が近所だった」、「同じ言語だけれども、違う国や地域から来た」と、お互いに共通点を見つけ、意気投合しているんです。

その光景を見て、お客様は潜在的に「旅先で新しい出会いを求めている」と気づいたんです。「違う場所から来たのに同じ経験を共有している」ことには特別感がありますし、思いがけず得られた情報には価値がある。

「ホテルを通じてでしか知りえなかった情報や、人との出会いを提供する」ことを再現したいと思い開いたのが、京都につくったソーシャルホテル「HOTEL SHE, KYOTO」です。

「HOTEL SHE, KYOTO」はお客様同士が繋がる場所であって欲しいとの願いを込め、宿泊部屋の数を減らしてキッチンとソファーを設置し、共用スペースを設けました。

もちろん部屋数が多いほど売上は増えます。でも、目先の利益を取るよりは、長く愛されるホテルでありたい。どこに力をかけるべきかと考えたら、“共用スペースの充実度”だったんです。スタッフがどのような声掛けをしたら、お客さんがラウンジに集まるのかを、今でも研究しています。

「HOTEL SHE,OSAKA」は、地域のカルチャーと旅行者をつなぐ“メディア”

ー新しく開かれるホテルでは、どのようにそれを実現していくのでしょうか?

誤解を恐れずに言えば、大阪の弁天町は“メジャーな場所”ではありません。東京でいうと、山手線沿線の「田端」のような場所。大阪の人でも用事がなければめったに立ち寄ることはないでしょう。

でも、実際に街を歩いてみると、港町ならではの煉瓦造りのコンテナが見られたり、昔遊郭があった場所が近くに残っていたりと、昔ながらの空気感が残ってる。むしろ地域の新しい魅力を発見することの方が多くて。

そのような、「レビューサイトでは見ることができない地域の良さ」をキュレーションして、お客さんに届けるようなホテルでありたい。そういう意味で地域と旅行者を繋ぐ“メディア”でありたいですし、地域に対してオープンなホテルでありたいと思っています。

また、デザインなどの目に見えるエンタメ性だけではなく、時代の空気感やカルチャーをいかに織り込んでいくかを考えています。テクノロジーが加速度的に進化する一方で、「写ルンです」や「シーシャ」など“アナログ”なものがトレンドとなっていますよね。なので、「HOTEL SHE, OSAKA」では全客室にレコードプレイヤーを置いていて、好きな曲をディグッって聞いたり、買ったりできるようにしています。

一般的に陽が当たらないと思われているところに、光を当て、新しい見方を与える。それが、会社のミッションである“Re write/light the world”につながっています。

ー最後に、ホテルを通して、今後実現したいことはありますか?

ホテルの作り手の精神性や価値観が反映されたホテルがもっと増え、旅行者がそれに共感して泊まる時代になってほしいです。

その考えが浸透すれば、「土地柄が知りたいから、ゲストハウスに泊まる」とか、「旅を楽しみたいから、旅を演出してくれるホテルに泊まる」と、その人の価値観がホテルに表れるようになる。そういった価値観の多様性を、私たちはホテルで牽引していきたいと思っています。

取材後記

実際に、一泊二日で「HOTEL SHE, OSAKA」へ泊まりました。「ソーシャルホテル」を銘打つだけあって、思いがけなかった”新しい出会い”がたくさん。

ラウンジでは、サードウェーブコーヒースタンド「WORK BENCH COFFEE ROASTERS」ドリンクを飲みながら、DJがかける曲を楽しむ。まるでライブをする箱のように、違うバックグラウンドの人と、同じ空間を共有する。こんなホテルは、初めてでした。

大阪に旅行するなら、次からは迷いなく「SHE, OSAKA」に行きます。だって、行けば誰かに会えるから。Swarmでどこかにチェックインするように、「自分の意思表示として、ホテルを選ぶ」そんな彼女の世界観が実現されるのが、僕は楽しみです。

■ HOTEL SHE, OSAKA(ホテルシーオオサカ)

オープン日:2017年9月1日(金)

住所:大阪市港区市岡1-2-5

電話番号:066-577-5500(8月26日以前の問い合わせ先:075-634-8340)

アクセス:JR大阪環状線 / 大阪市営地下鉄中央線「弁天町駅」徒歩5分

宿泊費:デラックス・ダブル:1万~3万円 / ダブル:7000円〜 / ツイン:7000円〜(※季節により変動)

ウェブサイト:https://www.hotelsheosaka.com/

 

■この記事のつくり手

取材・執筆:奥岡権人(https://twitter.com/ketokunsan

撮影:小野 瑞希(https://twitter.com/onomijuki

編集協力:オバラミツフミ(https://twitter.com/ObaraMitsufumi

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