Change.orgでの署名キャンペーンの開始から18時間後、AM 1:40の時点で賛同者が5,000人を突破しました。

賛同者の方のコメントを一つ一つもれなくチェックしていますが、長時間労働によってご自身やご友人、ご家族の心や体を壊された方、命を失った方の悲痛な叫びに胸が詰まりそうになります。

・私も長時間労働と戦い会社に色々な提案をしましたが、受け入れられず結局激務の末うつ病になってしまいました。

・夫が電通で働いています。明るく安全な家庭を子供のために必死で守りぬいてきましたが、本人も心が崩壊しているのでしょう。そんな自分を守るため、パワハラがエスカレートしています。

・自分も長時間労働によりストレスを抱え自殺をよく考えます。何の為に生きているのかと。死ぬ為に働いているのではないかとすら思えます。

・うちの父も長時間労働を長年続け、結果脳出血で寝たきりになりました。長時間労働は自分たちの代で終わりにしたい。
・私の大切な人は、電通の方と同じように自ら命を絶ちました。もう疲れた。この言葉は一生忘れられないです。誰もが知る大手の会社だったのに、何もニュースにもならず、そのまま……。この悲しみから逃げるように、私は日本を出てしまいましたが、また同じ長時間労働で若い命が奪われない事を祈り、賛同させて頂きます。
引用元:Change.org

一方で、NewsPicksやTwitterを見ていると、「署名には賛同しかねる」といった意見も散見されます。

例えば、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまささんのブログ。
長時間労働撲滅キャンペーンに半分賛成、半分反対

違和感の原因は2つ。

(1)何を訴える署名なのかが不明です。漠然と「長時間労働反対!」ではなく具体的にどういう規制をかけるのがいいのかまで提案すべきだと思います。要求が漠然としてしまっているのは、長時間労働に反対するのが、過労死を防ぐためなのか、経済施策としての一億総活躍のためなのか、似て非なる論点が混在してしまっているからだと思います。受け取った側がどうにでも解釈できる署名運動は署名運動とは言わないと思います。「戦争反対!」という署名活動がほとんど意味を成さないであろうことと同じです。

(2)宛名が内閣総理大臣であることに違和感を覚えます。厚生労働大臣にすべきではないでしょうか。長時間労働の規制については、野党連合が4月に労働基準法改正案を衆院に提出しているのですからそれをベースに審議にとりかかればいいはずです。国民の信を得て議員になった方々が具体的な改善案を提出しているのに、それを無視して首相宛のこのような活動が広まるのでは民主主義のあり方としておかしいと思います。しかもこのようなやり方では、この国の内閣総理大臣が法改正において万能であるような誤解を与えます。国家のあり方として非常に危険なことです。

全くもって仰る通りです。
(1)の「署名活動の目的の具体的な内容」については、「所定外労働時間の上限規制」と「インターバル規則の義務化」を「働き方改革実現会議」に届けることにあります。おおたさんのご指摘を受け、署名の冒頭と末尾に追加しています。

より具体的な内容については別途機会を設けてお伝えしたいと思っていますが、民間議員の白河桃子さんを通じて「働き方改革実現会議」で議長をはじめ、議員の皆さんに「国民の声」としてお伝えする所存です。

(2)については、「働き方改革実現会議」の議長が安倍首相であることから、宛名を安倍首相のみとしておりましたが、ご指摘を受けて新たに厚生労働大臣と働き方改革担当大臣を追加しています。

提言内容をブラッシュアップしていく上で、こういう形で疑問を呈していただいたり、反論・批判してくださるのは大変にありがたいことです。

「西村うざい消えろ」みたいな誹謗中傷は落ち込みますが、建設的な批判は大歓迎です。

若者の「長時間働く権利」について

さて、本題です。

反対意見の中で多く見られるのが「過労死をなくすことには賛成だが、長時間労働を一律で規制することには反対。もっともっと働きたい。」という声です。

主に仕事で高い成果を上げているハイパフォーマーな方、仕事を通じて大きなやりがいを感じている方で、20〜30代の優秀な方に見られる意見です。

「若者の成長機会・自己実現機会を奪うな!」

とも聞こえますが、お気持ちはとってもよくわかります。僕も仕事が大好きなので。ランナーズハイならぬワーカーズハイみたいなものがあって、寝食も時間も忘れて没頭するように仕事をして大きな成果を出せた時の達成感って半端じゃないですよね。

いわゆるチクセントミハイ教授の「フロー状態」に入った結果として、長時間労働してた、ということは誰しもが少なからず経験したことと思います。

そういう方にとって「残業は月45時間まで!」と規制されてしまうことは、「働く権利」が奪われるように感じられても何ら不思議ではありません。

「外部不経済」から長時間労働を考える

「外部不経済」という経済用語があります。典型例として知られるのは公害ですが、「市場の外部で他の経済主体にマイナスの影響を与えること」を外部不経済と言います。

自分自身の成長ややりがいのために、お客様や会社に貢献するために、自らの意思で長時間労働をすることそのものは何ら悪いことではありません。そうした働きぶりによって、顧客や会社に大いに貢献しているのは事実でしょう。

ただ、見落としてはならないのがそうした長時間労働によってもたらされる「外部不経済」です。自分自身が自らの意思に基づく「望んでの長時間労働」だったとしても、それによって「長時間働いた人が偉い」という価値観が組織内に形成されることにより、「望まぬ長時間労働」が間違いなく発生します。

終電まで帰らない上司や、深夜にメールを送りつけるプロジェクトメンバーなどがこれに該当しますね。

もし仮に、実際長時間労働をしている人が全員上記のように自らの意思で、かつ没頭的に働いているのなら何ら問題はありませんし、そもそも過労死なんて問題は起こっていないはずです。

つまり、長時間労働をしている人の多くが「自らの意思とは反して」「半強制的に」やらされていると感じていて、できることなら長時間労働から解放されたいと思っているのです。

署名への反対意見の中には「望まぬ長時間労働」は規制すべきだが「望んでの長時間労働」は規制すべきでないという意見がありましたが、その長時間労働がどちらであるのかを外形的かつ客観的に判断するのはほとんど不可能です。仮に望まぬ長時間労働だったとしても、評価を気にして「望んでの長時間労働」であると申告してしまうのが労働者だからです。

結論:長時間労働は規制すべき

改めて、長時間労働規制のPros&Cons(メリット・デメリット)を比較してみましょう。マクロ・ミクロ視点はあるかと思いますが、今回は「もっと働きたい!という個人」に言及している記事なので、あくまでミクロ視点(個人)に縛っています。

【Pros】長時間労働を規制することによって得られるもの:

①十分な休息時間・睡眠時間の確保による健康維持
②余暇時間が増えることにより自己投資が可能に

③本人あるいはパートナーの家事・育児時間が増え、家庭内ストレスが軽減

【Cons】長時間労働を規制することによって失われるもの:
①長時間働くことによって得られるやりがい、成長機会
②残業代
③居場所
いかがでしょうか。抜け漏れはあるかもしれませんが、概ねこんなところかと。
残業代を稼ぐために、或いは居場所が家にないために残業する、というのはサラリーマン川柳を見ているかのようですね。

「顧客の期待に沿った商品・サービス提供」が失われるのでは?という観点もありますが、長時間労働しなければ実現不可能なものではなく、長時間労働を前提とせずとも高いパフォーマンスを上げている人はたくさんいるので、割愛しています。

上記のPros&Consを定量的に比較考量することは難しいですが、定性的に考える限り、「長時間労働を規制するメリット」の方が圧倒的に大きいです。

人命や健康よりも個人の成長ややりがいが優先されて良いわけがありません。

したがって、長時間労働は規制すべき(*)と考えています。
*ここでいう長時間労働の規制は署名でも主張している「所定外労働時間の上限規制」と「インターバル規則の義務化」のことを指します。

もっと働きたい!という若者のエネルギーはどうするのか?

もちろん、若者を中心とした「もっと働きたい!」という人の声を見過ごして良いわけはありません。

「働きたい!」というエネルギーを徹底活用することなくして、社会の活性化はありえないと考えています。

ただ、その「働きたい!」というエネルギーの使い道が「残業」しかないと考えているのだとしたら、それはあまりにも残念です。

あなたのそのエネルギーや類い稀なスキルやナレッジを求めているのは、あなたの会社だけではありません。

余暇時間でNPOやスタートアップに参画して貢献するもよし、減った残業代を補うために副業・複業するもよし、労働基準法の規制とは無縁な経営者として働くために起業するもよし。お金に余裕があれば社会人大学院に通ってみるのも良いでしょう。

ただ、残念なことに現時点では副業禁止規定を設けている企業が9割以上です。

これでは、若者の有り余ったエネルギーの使い道が「遊ぶ」か「学ぶ」かしかないですよね。これでは「もっと働きたい!」というエネルギーを無駄にしてしまうだけです。

あくまで私見ですが「長時間労働の規制」と「副業解禁」は車の両輪です。

副業解禁は今回の署名活動ではスコープ外ですが、働き方改革実現会議では是非「副業解禁」をセットで「長時間労働の規制」を検討してほしいなと思っています。

署名活動はまだまだこれから。

署名活動の呼びかけ人として新たに以下の方々が加わってくださいました。

NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子

モーハウス代表取締役、子連れスタイル推進協会代表理事 光畑 由佳

働き方改革総合研究所(株)代表取締役 新田龍

ライフネット生命会長 出口治明

工藤啓

NPO法人マタハラnet代表理事 小酒部 さやか

特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ 代表 村木 真紀

株式会社チェンジウェーブ代表取締役 佐々木 裕子
(敬称略)

公開から丸一日が経過し、すでに約6000人の方が署名に賛同してくださっていますが、まだまだこれからです。「国民の声」として政府に伝える上では、少なくとも1万筆、できれば100万筆はほしいと考えています。

ご協力のほど、何卒よろしくお願いします。