近年、人材育成や社内改革の観点から、「イントレプレナー=社内起業家」を育成する企業が増えています。また、パラレルワーク(複業)として社外で起業したり、社外団体を設立したりする人も少なくありません。

そんな中、パラレルワークで得たスキルや経験をイントレプレナーとして本業に活かし、社内でイノベーションを起こそうと仕事をしている方がいらっしゃいます。そんな存在のことをパラレルプレナーと呼びます。

本記事では、「パラレルプレナーの時代」と題した連載で、パラレルプレナーとして会社の枠に囚われずに活躍する磯村幸太さんにお話を伺いました。

 

磯村幸太  プロフィール
AGC社内コンサル兼経営企画 / フリーランス / NPO二枚目の名刺 / 慶應大学大学院SDM研究科研究員 / 愛媛県八幡浜市コミュニティマネージャー等。
組織開発、オープンイノベーション、社会課題解決等にファシリテーターとして取組む傍ら、パラレルキャリアの学習理論である越境学習を研究している。
note:https://note.com/kota1106

ビジネス、アカデミック、ソーシャルを越境して活躍

 

ー本日はよろしくお願いします。まずは磯村さんの現在のお仕事について教えてください。

磯村幸太です。東京都と愛媛県の二拠点生活を行っています。パラレルプレナーとして仕事の場を大きく分けて5つ、持っています。

本業は、新卒から入社した素材メーカーAGCの社内コンサルと経営企画です。AGCは、はじめに工場で生産管理を2年、異動して営業を3年やった後に、志望して現在の部署になりました。

2つ目がNPO法人「二枚目の名刺」です。二枚目の名刺では、社会課題に関心がある社会人と、NPO法人のマッチングして、協働プロジェクトを行っています。

3つ目が、 慶應大学大学院SDM(システムデザイン・マネジメント)研究科研究員です。2017年に大学院へ入学し、2019年に修了したのですが、現在は研究員として籍を置いています。

4つ目がフリーランスとして、キャリアアドバイザーやコーチング、ファシリテーターなど様々な形で働いています。

そして最後に、拠点のひとつである愛媛県八幡浜市でのコミュニティマネージャーなどの活動です。

 

ーまさに複業と言える働き方ですね。それぞれの活動に親和性はあるのでしょうか?

ビジネスとしての会社員、ソーシャルとしてのNPO、アカデミックとしての研究員…と領域はバラバラのように見えますが、いずれの活動もファシリテーターとリサーチャーとしてのスキルを活かして仕事をしています。

 

ーパラレルプレナーとして相互に好影響を与え合って働けていますね。

 

求められるもの、与えられることで仕事を始める

 

ーそもそもどのようなきっかけでいまの働き方になったのでしょうか?

2017年の元旦に、たまたまテレビで「ライフシフト」という本が紹介されており、興味を惹かれました。ネットで調べて概要文を読み、そこで「ポートフォリオワーカー」という言葉と出会います。これは面白そうだぞ!と思って、仕事はじめだった5日に上司に副業をしたいと相談し、その日のうちに開業届けまで出してしまいました。

そもそも実家が地元で家業を営んでいて、それの手伝いをする過程で事業を起す必要性もあったんです。

 

ーAGCと言えば大企業ですし、2017年だとまだまだ副業ですら認知度は低かったのではないでしょうか?

そうですね。ただ、AGCは地方に工場を持っていて、兼業農家の社員が一定数いました。そのため、許可制で副業の実施は承諾を得られるようになっていました。とはいえ私のように、やむを得ない事情があるわけでもなく、どちらかと言えば自己実現の意味合いを含んだ副業というのは前例のないことだったと思います。

 

ー開業届けを出すまでのスピード感にも驚かされました。当時、事業展開などは考えていたのでしょうか?

「思い立ったら吉日」と言わんばかりの行動をとる人間なんですよね。言葉の通り、思い立っての開業だったので、当時はまだ事業の内容はひとつも決まっていませんでした。

 

ーそこからどのように会社員以外での仕事をつくっていったのでしょうか?

まずは無料のキャリアアドバイザーから始めました。ちょうどそれが20代後半でしたから、周りの友人でキャリアに悩んでいる人が多かったんですよね。

そういうリアルに困っている人が目の前にいましたし、私は整理整頓が得意な性格なので、悩んでいる人の思考整理の手伝いはできるぞ、と思って始めました。

最初は知っている人に声をかけて無料での実施です。それを満足に感じてもらえれば、自然とその人が別の人を紹介してくれるんです。そのような出来事を重ねて、一定の価値を提供できるという手ごたえを覚えてから、今度は投げ銭制で有料化しました。

終わった後に「いまのこのキャリアアドバイスに、いくら払いますか?」と聞いて、その金額をいただきました。何回か繰り返すうちに、自分が提供しているサービスにどれだけの金銭的価値があるのかが見えてくるので、そうやって値付けを行っていましたね。

 

ー最初からお金を求めるのではなく、自分ができることからスタートしたんですね。その後、別の事業を始められていますが、どのように広げたのでしょうか?

大学院へ行ったことが大きな転機だったと思います。大学では、デザイン思考やシステム思考、プロジェクトマネジメントなどの様々な思考法を学べました。独学で体得したファシリテーションのスキルと掛け算することで、それまで行っていた個人向けのカウンセリングを、団体向けのワークショップという形でも実施可能になったんです。

大学院の修士論文では、パラレルキャリアの本業とのシナジーについて研究しました。いまの私の働き方そのもののような論文でしたね。

それまでビジネスとアカデミックの両方の領域で活動ができていて、次に進出するならソーシャルな場だと考えました。そこで、NPO「二枚目の名刺」を思い出し、自ら応募して事業に参加することになったんです。

 

ー「二枚目の名刺」ではどのような業務を行っているんでしょうか?

パラレルキャリアや越境学習に関する調査をし、それを記事にまとめて発信しています。そしてそこで得た知識を使って、人材育成に関してのプロジェクトも遂行しています。

また、プロジェクトデザイナーとして、マッチングしたNPOと社会人の伴走者の役割を果たしています。各プロジェクトが3か月スパンで実行されるのですが、その間に、参加者の目の色が変わっていくんです…そういった変化に携われることに、大きなやりがいを感じています。

 

キャリアは自分で作るもの

ー社外での経験、得たスキルが社内で活かせ始めたのはどのくらいのタイミングなんでしょうか?

開業して半年経ってくらいでしょうか。AGCでは、ビジネスプロセスを改善していく社内コンサルの仕事がメインだったのですが、それが人材育成や組織開発の業務も任させるようになっていきました。

副業での実績や、大学院での学びなどをアピールしていたことで、繋がっていきました。もともと上司には承諾をもらったうえでの活動だったので、どんなことをしているのか気に掛けてもらえていたんですよね。そこでしっかりと、自分の働きを伝えられたからだと思います。

 

ー複業家だったのが、だんだんと、経験を相互作用させるパラレルプレナーに進化していったんですね。

現在だと、慶応義塾大学とAGCでの共同プロジェクトとして、サステナブルな社会を醸成するためにAGCが貢献できることを考案しています。ソーシャルとビジネス、アカデミック、それぞれ違う手段や人脈の良い部分を組み合わせて、新しい価値の創造にチャレンジしています。

 

ーパラレルプレナーとして活動を始められて、3年が経っていますが、どのようなことが得られたと感じていますか?

活動の場が広がったことで、当然、人脈や知識や機会が倍増しました。また、マインドへの変化もありましたね。自分のキャリアは自分で作る、という気持ちでいます。

日々の楽しさも得られたことのひとつです。大学の頃から、「自分がわくわくすることしかしないぞ!」と心に決めていました。そのために、勉強や自ら行動することを大切にしてきました。

ただ、仕事となると、自分自身でコントロールできない部分もあります。環境の変化に柔軟に対応するため、多くのスキルと活躍の場は役立ちますね。たとえ、「楽しくない」と思える仕事があったとしても、自分で別の仕事へシフトすることや、別業務にスイッチすることで気持ちの入れ替えが可能になっています。そのおかげで、毎日を楽しく過ごせていますね。

 

ー磯村さんの活き活きとした表情からも楽しんで生活されていることが伝わります。逆に、失ったものはありますか?

会社への忠誠心、でしょうか。会社に従わなければならない、という感覚はなくなりました。そして前よりももっと会社を好きになりましたね。

色んなことを提案できる自分になって、それを理解し後押ししてくれることが分かったので、愛着が増しています。

 

ー磯村さんは、領域に囚われずに柔軟な働きかけができていると感じますが、意識すべきポイントはあるのでしょうか?

それぞれの組織には、違ったカルチャーがあるので、別の組織で得た知識をそのまま移植しようとすると、拒絶反応が起きます。越境学習研究においては、これを「迫害」と呼びます。土台が違うので、反発が起きるのは当然です。

なので、そこには翻訳者の存在が必要になります。組織ごとの言葉づかいや、物事の進め方に合わせてあげるんです。そうやってうまく移植してあげることで、知識や価値感が存分に発揮されると感じています。

パラレルプレナーは翻訳者としての立ち回りを意識すると良いでしょう。

ー本日はありがとうございました!

 

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取材:西村創一朗(Twitter
執筆・編集:野里のどか(ブログ/Twitter

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