近年、人材育成や社内改革の観点から、「イントレプレナー=社内起業家」を育成する企業が増えています。また、パラレルワーク(複業)として社外で起業したり、社外団体を設立したりする人も少なくありません。

そんな中、パラレルワークで得たスキルや経験をイントレプレナーとして本業に活かし、イノベーションを起こそうと仕事をしている方がいらっしゃいます。そんな存在のことをパラレルプレナーと呼びます。

本記事では、「パラレルプレナーの時代」と題した連載で、パラレルプレナーとして会社の枠に囚われずに活躍する加藤康之介さんにお話を伺いました。

 

加藤康之介 プロフィール

日立グループでシステムインテグレーション業務を経験後、楽器事業会社に転職。現在はイントレプレナーとして、新規事業を推進する。複業では、Tumugu LLCの代表として「伝えることを民主化していく」をビジョンに事業コンサルティング、ブランディング、M&Aアドバイザリーなど事業変革のサポートを手掛けている。

 

「伝えるを変えていく」を軸に幅広く事業展開

――加藤さんは現在、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

本業では、静岡県にある楽器事業会社で新規事業に携わっています。ボトムアップの企画を事業化する仕組みが社内にあるので、現在は14〜15人のメンバーと共に動画制作サービスを事業化して開発を進めているところです。

複業では、個人事業主と法人の両方で仕事をしています。まず2019年に個人事業主として開業し、2020年には法人として「TUMUGU LLC」を創業しました。

個人事業主としての仕事は、DX推進やクラウドソフトの導入支援、アプリ・Web開発、新規事業創出・組織構築です。法人では、ブランディング・マーケティングやM&Aのアドバイザリー、資金調達支援、海外税制対応支援などを行なっています。法人の事業では20人ほどのメンバーと一緒に仕事をしていて、そのほとんどが複業人材です。

――複業では幅広い事業を手掛けていらっしゃるんですね。

事業の幅は広いのですが、「いかに事業・商品の強みを整理し、お客様にらしさを届けて、拡大していくか」という軸は同じです。「伝えるを変えていく」をビジョンに掲げ、内部・外部・ステークホルダーそれぞれに向けた伝え方の最適化を目指しています。

 

「好奇心」をモチベーションに複業でアウトプットを最大化

――加藤さんが複業を始めた理由は何だったのでしょうか?

もっとも大きな理由は、自分の好奇心を満たすためです。本業で事業作りに関する仕事が一通りできるようになったものの、大企業の中では新規事業を拡大させることが難しく、さまざまな壁にぶつかりました。既存事業との共存も難しい。それならば、会社の外で試してみようと思ったのです。「イノベーションは、会社と会社・事業と事業の間に存在する」と信じているからでもあります。

新規事業に積極的な中小企業・ベンチャー企業があれば、私のスキルセットを生かして事業推進のサポートができます。サイロ化やセクショナリズムといった大企業特有の問題も大きくないため、事業立ち上げから拡大させるところまでを実現できるんじゃないかと考えました。特に中小企業には、会社独自の強みを確実にあります。そこに大きな可能性を感じています。

それに、人や組織、経済、テクノロジー、デザインなど、さまざまなことを高次元で複合して事業を組み立てることが楽しいんです。だからもっと本質的原理を理解し、アウトプットしたいと思った。それが今の複業を始めた理由です。

私が持っているスキルを、事業作りやデジタル化推進などで困っている企業のために使って社会貢献したいという気持ちもあります。

――では、本業で得た知識やスキルが複業にも生きているのですね。

新規事業の作り方や進め方は、私が好きでやってきたことの延長線上にあって、本業で習ったわけではありません。ただ、本業で身に付けた法務や知的財産、投資感覚などの知識や経験は、複業にも生かせていると思います。映像ソリューションを作るにあたって、ストーリーの組み立て方の本質を理解できたのも役に立っていますね。

――逆に、複業で得た知識や経験は、本業でも役に立っていると感じますか?

はい、大企業の中にいるだけでは気づけないようなことを肌感覚で知ることができているので、それを本業で生かすことができています。例えば、中小企業の知識・ノウハウ・感覚・課題の本質的な部分は、実際に企業の中に入って初めて知ることができるんです。本やセミナーだけで知っている人とは大きく違います。大企業と中小企業でお仕事を作り上げるとき、その視点やノウハウが役立っていると感じますね。

――平日は本業もお忙しいと思うのですが、休日に複業も……となると大変だと思います。複業を続けるモチベーションは何でしょうか?

私の場合、やっていて「楽しい」と思えることがモチベーションになっています。自分を成長させるため、そして自分のアウトプットを最大化するための手段として複業をしているので、「事業を営んでいる」という感覚はあまりないんです。

それにTumugu LLCやお客様にも色々とお手伝い・配慮をいただきながら、複業を実践できています。Tumugu LLCのメンバーには、本当に助けられているんです。チームで仕事をするからこそ、成果を出すことができるということを実感しています。今後もTumugu LLCのメンバーの実現したいこと・成長したいことが実現できるようなプロジェクト設計し、実現していければと考えています。

お手伝いしている企業の方に感謝してもらえることも喜びに繋がっていますが、それ以上に世の中の原理原則を理解し、自分なりに最適な構造に組み上げることのほうが嬉しいですね。見えるものが広く・深くなることで、より多くのアウトプットができるようになると「楽しい」と感じます。その楽しさを、お客様や関係者にも伝えていくことにやりがいを感じています。

――以前はエンジニアとして働かれていましたが、今はどちらかと言えばディレクション側ですよね。もともとそのような仕事に興味があったのでしょうか?

いえ、昔は何かを形にしていくことがすごく好きだったんです。だからエンジニアとして仕事をしていました。でも企画側に回ってみたら、事業の一連の流れがすべて見えるようになったんです。それで徐々に興味の範囲が広がって、今のような事業形態になっています。実際のところ、IT、人、もの、お金を使って実世界上でストーリーをプログラミングをしている感覚があります。機能だけでなく、情緒的な要素を含めてデザインしていくことに新しい価値を感じています。

それに視座を上げてみれば、エンジニアとしての仕事も上には上がいるわけです。専門家になれない分、ジェネラリストとしてできることがあるんじゃないかと思って色々なことに挑戦してきた結果、現在の業務に辿り着きました。

――複業で企業の顧問もやっていらっしゃるとのことですが、どのような経緯があったのでしょうか?

現在2社の顧問をしていますが、どちらも私が企業に直接営業をかけました。面白そうだったり強みを持っていたりする企業の社長に連絡して時間をいただくんです。そして、外部情報から分析した事業改善プランをレポートにまとめて説明し、実施するかどうかを訊ねます。そうしてどちらも賛同してもらえたので、顧問として参画しているんです。

――行動力と提案力の賜物ですね。現在は静岡県内のみで活動されているのですか?

今は静岡県内のみです。静岡県は地元なので、何とかしたいと思う気持ちがあるんです。私が今まで培ってきたノウハウと、同じ土地で育った人たちのいいところを掛け合わせて、よりよいアウトプットができればいいなと思っています。

 

地方にシリコンバレーを作って世界と繋ぎたい

――今後の目標や展望を教えてください。

「価値をお客様に与える総合体験において、正しい演出をし、伝わる形に落とし込むこと」が十分にできていない人や組織、地域を、私の持つスキルセットでエンパワーメントできたらいいなと思っています。そのために何ができるか考え続けたいです。そして、自分自身も解像度をもっと上げていきたいと思っているので、それが叶う場所や環境を自分で作っていくことが目標ですね。

6〜7年後には、大企業・中小企業・ベンチャーで協業したオープンイノベーションの企画開発と製品販売を行いたいと考えています。今はまだ種まきと土壌作りの段階ですが、最終的には本業と複業をミックスさせたいです。

シリコンバレーのように持続的に非連続的なイノベーションが起こる場所を地方に作り、東京・大阪・名古屋・浜松・香港・シンガポール・ハワイを繋げることを狙っています。

――海外展開も考えてらっしゃるんですね。

知り合いに海外出身の人や海外で起業している人がいるので、その人たちの力を借りながら製品を輸出する段取りをしているんです。

――本業で取り組んでいきたいことはありますか?

「伝えること」に困っている人や組織のあり方をリデザインする音と映像のサービスを作りたいと思っています。背景にあるストーリーを、上手くまとめて伝えることができていないものづくりの企業は多いんです。

一部のデザイナーのクリエイティブで実現している企業もありますが、標準化には至っていません。私はそれをデジタルで標準化したいんです。日本のものづくりの性能・スペックに、情緒的な価値をプラスできるといいなと思っています。

――今後も「伝えること」が加藤さんの軸なのですね。

 

自分の価値に気付き、持っているスキルを外で生かしてほしい

――最後に、これから複業を考えている人に向けてメッセージをお願いします。

インターネットや国際移動の利便性が向上した今の社会では、テクノロジーの革新と伝播速度が指数関数的に上昇しています。これまでの常識の延長線上で生活していては、日常生活を維持することも困難になっていくでしょう。

そんな時代に、社内の利害関係が複雑に絡み合う大企業の中で、政治力や忖度、派閥などの影響によってキャリアを左右されるのは望ましくない。私の価値観においては、そのようなキャリアで得られるものは少ないように思うのです。

しかし。大企業に勤めている人で「自分にはスキルがないから」という理由で、複業に踏み出せない人を多く見かけます。大企業で仕事をしていて得られる知識や情報、スキルは、クオリティが担保されているので、中小企業やベンチャー企業にとって価値になりうるんです。

実際に中小企業の中に入ってみると、「仕事を割り振られたから担当し続けている」という人がいることに気付きます。専門的な知識がなくて正しい情報も入ってこないから、改善がなかなか進みません。そういった場所に大企業の正しいノウハウを持っていけば、もっと良くすることができる。その事実をもっと知ってほしいと思います。

複業の成功に必要なのは、マインドチェンジだけです。

――ひとつの企業にいるだけでは、自分の強みに気付けないこともありますよね。加藤さんならではの説得力のあるメッセージ、ありがとうございました!

 

取材・文:矢野 由起

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