時間や場所に縛られず自由な働き方ができること、自分で将来を決められることが魅力と考え、会社員からフリーランスに転向する人が増えてきているのは皆さんもご存じの通り。最近では、1100万人近くまでフリーランス人口が増加しているといわれています。

この記事では既にフリーランスとして働いている方、これからフリーランスを検討している方のために、フリーランスの産休・育休・保活の実態をご紹介します。現状を知っておくことで、出産・育児がしやすい状況を作れるよう、ぜひ参考にしてみてください。

フリーランスにならざるを得なかった人も多い

フリーランスとして働く中には、大きく分けて2種類の人がいます。まずは会社員として働かなくても、フリーランスとして食べていけるキャリアを描き自ら選んでフリーランスになった人。もう一方は会社員の就業形態で働くことが難しい病気を持っている、シングルマザーなどを含め、育児や介護で時間が不規則であるため、フリーランスにならざるを得なかったという人です。

前者であれば「フリーランスになったんだから保障がないのは仕方ない」「自由を得るための代償だ」という見方もできますが、従来の枠組みでは働けないフリーランスの人口が増えてきていることを見ると、「自由を得るための代償だ」と自己責任論で片付けるのはいささか乱暴といえるのではないでしょうか。

フリーランスは産休・育休という概念がない

会社員であれば、産休・育休が取れるのは当たり前。最近では保育園に入れない場合は育休の延長ができるなど、徐々に世の中の状態を反映した制度になってきました。しかし、フリーランスには産休・育休という概念がありません。

フリーランス女性の産休・育休実態を紐解くと、驚くべき事実がわかります。経営者またはフリーランスとして働く女性のうちの約45%が「産後1ヶ月以内に復帰」、「産後2ヶ月以内に復帰した人」は59%と約6割を占めているのです。

出典:「雇⽤関係によらない働き⽅と⼦育て研究会 緊急アンケート調査 2017年版(PDF)」

一般的な感覚であれば、「それしか休まないなんて、体が辛いだろう」「赤ちゃんがかわいそう」という人も多いでしょう。しかし、「どうしても仕事を再開したい」と考えての復帰というよりも、産休・育休のセーフティネットがないから、所得補償がないから、働かざるを得ないというのが実情です。

ここで会社員とフリーランスが受けられる補償の格差について見てみましょう。

会社員とフリーランスが受けられる補償格差

会社員は妊娠・出産に際して下記6つの補償(フリーランスは★印のある2つのみ)が用意されています。

・産前産後休業(産休)

出産予定日まで6週、出産後の8週は休業できる法律(労働基準法)。会社に申請すれば誰でも取得可能です。

・育児休業(育休)

出産日の翌日から1歳になるまで休業できる法律(育児・介護休業法)。こちらは下記の取得条件があります。

<取得条件>
  • 同じ事業主に1年以上継続雇用されている
  • 1歳以降も継続して雇用されると見込まれている
  • 2歳の誕生日前々日までに契約期間が満了し、契約更新がないと決まっていない
  • 週の所定労働日数が3日以上である
  • 日々雇用でない

・出産手当金 ※国民健康保険は対象外

勤務先の社会保険に加入していれば、産休中にもらえるお金。

被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合は、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として出産手当金が支給されます。出産日は出産の日以前の期間に含まれます。また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。

<参考 出産手当金の額>

引用:全国健康保険協会ホームページ 「出産で会社を休んだとき」

・育児休業給付金

勤務先の雇用保険に加入していれば支給されるお金。休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始は出産日+産休8週間後から)育休開始から6カ月経過後は50%の金額が支給されます。

出典:厚生労働省ホームページ 「育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて(PDF)」

★妊婦健診費助成

トータルで14回ほど受ける妊婦健診ですが、妊娠が病気ではないため、保険の適用外。そのため、費用が高額です。その費用をサポートしてくれるのが妊婦健診費助成。自治体によってその額や適用範囲が異なるため、お住まいの自治体で確認しましょう。

※川崎市の場合、21,000円券×1回、8,000円券×3回、6,000円券×2回、4,000円券×8回が支給されます。(2019年10月31日時点)

出典:川崎市ホームページ 「妊婦健康診査の助成制度について」

★出産育児一時金

出産についても保険適用外となるため、入院費も高額。そのため、出産育児一時金42万円が支給されます。病院の窓口で手続きすれば、病院に直接支払われるため、役所に行く必要がありません。

出典:厚生労働省ホームページ 「出産育児一時金の支給額・支払い方法について」

 

フリーランスと会社員、働き方の違いで生まれる差はなんと300万円!

出典:「雇⽤関係によらない働き⽅と⼦育て研究会 緊急アンケート調査 2017年版(PDF)」

会社員とフリーランスでは受けられる補償に4つも差がありました。それに加えて、フリーランスは会社員が受けられる産休・育休中の健康保険料と厚生年金保険料の支払いの免除がありません。(フリーランスの場合は国民健康保険と国民年金)

フリーランスも2019年4月~国民年金保険料が出産前月から4カ月間免除となりましたが、会社員の育休期間に比べると大きな違いです。出産後の働けない状態でもフリーランスだけは働いているときと同じだけ支払いを行わなければならない状況があります。これもフリーランスママが早急に復帰をしなければと焦る、大きな理由といえるでしょう。

フリーランス保活の実態とは?

フリーランスが保活をする場合は、育休がないため求職中という扱いを受けることが多いのはご存じでしょうか。2017年末に下記のような事務連絡があったことにより、変化しつつあります。しかし、あくまで事務連絡であるため、強制力はありません。そのため、現在は自治体によってかなりバラバラな対応がなされています。

◯事務連絡内容の簡単なまとめ

  • フリーランス=居宅内労働のため仕事の拘束時間が短く、育児ができるはずというのは誤った見方のため、(居宅外労働である会社員との)点数に差をつけることは望ましくない。
  • 育休が終了した場合優先的に利用できるとなっているが、自営業も育休中の方と同等の扱いに。
  • 会社に連れて行く、取引先に連れて行っている状態だから保育が可能とはいえない。そのため、減点すべきではない。
  • 就労状況の確認で必要な提出書類について明示すること、それぞれの勤務実態に応じて柔軟に対応し、負担を軽くすること。

出典:内閣府ホームページ 「子ども・子育て本部 多様な働き方に応じた保育所等の利用調整等に係る取扱いについて(PDF)」

その後の対応も自治体によって異なるため、妊娠・出産を考えているなら住んでいる自治体の方針などを確認しておくことをおすすめします。

現状、フリーランスが育児中に頼っているサービスは?

出典:「雇⽤関係によらない働き⽅と⼦育て研究会 緊急アンケート調査 2017年版(PDF)」

自治体によって大きく対応が異なるため、フリーランスとして働くときには周囲(夫・パートナー、祖父母や親族)のサポートが不可欠であるとわかります。また、周囲のサポート以外で見ると、一時保育・ベビーシッター・ファミリーサポート(ファミサポ)・託児所付きコワーキングスペースという順番で利用中。

保育園に入れない実態、そして保育園以外の高額な保育サービスに頼らざるを得ず、約3割が月額5万円以上出費している状況が見て取れます。

さまざまな保育サービスを活用して充実した生活を

保育園に落ちてしまった場合は、託児所付きコワーキングスペースや自治体の提供する保育サービスやベビーシッターなどのサービスを使い、仕事と育児の両立をしていきましょう。

ベビーシッターサービスで有名なキッズラインが、東京都ベビーシッター利用支援事業の事業者に認定されたため、1時間250円でシッターサービスが利用可能です。ただし区によっても対応が異なるため、フリーランスでも利用可能かどうかは確認しておくべきです。

出典:キッズライン公式ホームページ 「東京都ベビーシッター利用支援」

また、自治体によっては高額な保育サービスに比べて非常に安価な子育てサポート事業を行っているところもあります。例えば、川崎市では地域子育て自主グループへの支援や、子育てヘルパーを行いたい方と利用者のマッチング、家事・育児サポート事業などの取組みを行っています。

子育てヘルパーについては、冠婚葬祭、学校行事、通院、買い物などによる一時的な預かり、保育園・幼稚園の送迎などサポート的な使い方となります。しかし、サポートセンターへの年会費を1200円、月~金の8時~18時は1時間700円、土日祝・年末年始・月~金曜の8時~18時以外の時間帯は1時間900円と良心的な価格で育児援助が受けられます。

出典:川崎市 「ふれあい子育てサポート事業」

出典:川崎市 「地域子育て自主グループへの支援」

出典:川崎市 「家事・育児サポート事業」

フリーランスは妊娠前から綿密な準備が必要

このようにフリーランスが置かれている状況を知ると、かなり厳しい状況であることに驚かされたという方も多いはず。もちろん、フリーランスだけを「保護」する必要はありませんが、他の雇用関係にある人が受けられている「最低限のセーフティネット」は準備すべきといえるのではないでしょうか。

フリーランスとして働き、これから妊娠・出産をする方は事前に自治体の動向を調査し貯蓄をしておくなどの準備を行っておきましょう。また既に育児中で保育園に入れていない方は、ご紹介したような保育サービスを利用しながら、充実した仕事・育児生活を送れるよう模索してみてください。

これからさらに増えていくことが予想されるフリーランス人口が活躍し、日本経済を活性化させられる社会にするためにも法整備が進むことを願ってやみません。

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