「複業」という言葉を聞いて、みなさんはどのような仕事をイメージするでしょうか?

例えば、複業ライター、複業プログラマ、複業デザイナー……など。

「何らかのアウトプット」の対価として報酬を貰うという仕事であればシンプルに想像できます。とはいえ、上記のような「何かを作り出す」仕事には専門的な知見やスキルが必要です。

こういった専門性の高いスキルを必ずしも全ての人が持ち合わせているわけではありません。複業に挑戦するにあたり、「何を仕事とすべきか」に悩んだ経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回インタビューさせていただいた二神 雄揮さんは、元々は東証一部上場メガベンチャーの営業職出身のビジネスパーソンです。そんな彼は、ペットを飼ったことをキッカケにペットのインフルエンサーになることを決意。

現在、フォロワー1万人を超える愛犬2匹のインスタグラムアカウント「さくらとこむぎ」や、YouTubeチャンネル「さくこむチャンネル」を運営しています。愛犬インフルエンサーの仕掛け人としての背景や複業スキルを身につけるためのヒントを伺ってきました。


2匹のペットを迎え入れたことをキッカケにインスタグラム運用を開始。本業のスキルを活かし複業化!

ー 二神さんは愛犬2匹をインフルエンサーとして成長させた“仕掛け人”でもあります。改めて現在行っている複業について教えていただけますか?

愛犬のさくら、こむぎのインスタグラムアカウント「さくらとこむぎ」の運用と、それに伴いインスタグラム運用のセミナー講師やSNSコンサルをやっています。具体的な収入源としては、インスタグラムで商品などを紹介する企業様の案件やセミナー/コンサルの収益です。最近では、YouTubeのチャンネル「さくこむチャンネル」を開設し、企画から動画編集まで行っています。

 

 

ー インフルエンサーとしての活動を総体的に担っているんですね。愛犬をインフルエンサーとして育てようとおもったキッカケは何だったのでしょうか?

個人でインスタグラムのアカウントを持っていたのですが、当時はペットの写真を上げることもなく、ごく普通のSNSとして利用していました。ユーザーの1人として色々なアカウントをフォローしているうちに、「柴犬まる」という柴犬のインスタグラムアカウントに出会いました。当時でも日本国内の人気アカウントランキングで上位3位くらいに入るくらいの有名なアカウントで、面白いなと思って見ていました。

去年(2018年)の5~6月の間に2匹の犬を迎えたことを機に、自分でもペット専門のアカウントを作ってみようかなと思い立ったんです。少し調べてみると、ペットの人気アカウントっていうのは沢山あるのですが、戦略的に運用しているアカウントっていうのは少なかったんです。例えば、かわいい写真が1つ2つ話題になったことで有名アカウントになったとか、偶然人気になったアカウントが多い印象です。

ここなら、いままで本業で培ってきた事業開発のスキルが活かせるんじゃないかと感じ、単にペットの可愛さを伝えるだけでなく、コツコツ運用しながらPDCAを回せばインフルエンサーになれるのではないかと思ったのが最初のキッカケです。

ー インスタグラムを戦略的に運用とのことですが、具体的に周りのアカウントと差別化を図るにあたってどういった施策を実施されたのですか?

軸として「露出×フォロー率」という考え方を大切にしています。露出というのは、どれくらいの人に見てもらえるか、フォロー率というのはアカウントに触れてくれた人がどれくらいの割合でフォローしてくれるかです。

特に注力しているのは「誰」の目に触れるように露出させるかです。犬のことを載せているのに、料理好きなユーザーの目にいっぱい触れるように露出させても、自分のアカウントのファンになってくれる可能性は低いですよね。

自分のアカウントのファンになってくれる人は誰なのか、どうやったらその人たちの目に止まるように露出できるのかを試行錯誤しながら運用していました。どんなターゲットに対して自分のアカウントをどうアプローチするのか、Webマーケティングの考え方でPDCAを回していくのが面白いですね。

「様々な仕事に関わり事業を立ち上げたい」その原体験は父親の働き方

 

ー 企画から写真や動画の制作まで幅広いスキルを持ってらっしゃいますが、ベースとなるスキルはどこで身につけたのでしょうか?

現在のように、企画からプロデュース、制作まで手がけるようになった原体験として、父親への憧れがあるんです。父は、会社の経営者なのですが、不動産やアパレル、介護など色々なプロジェクトに携わっていて、1つの業種にとらわれない柔軟な働き方を実践していました。そういった環境なので、小さいころから色々な立場/職業の人や、色々な価値観の人たちが身の回りに居る環境でした。

僕が就活生の時、どうやったら父のような働き方ができるかを考えた時、「事業開発スキル」を高めることが大事なのではないかと考えました。

コアとなるスキルとして、営業/マーケティングを身につけ、その経験やスキルを元に物事を構造化して捉えてアナロジーにより横展開することにより様々なプロダクトの事業開発経験を積むと、IT業、アパレル業、飲食業などどういった業種でもゼロイチでビジネスを立ち上げて成果を残せると思ったのです。

そのため、大学在学中から4~5社でインターンを経験し、営業を軸にマーケティング、エンジニアリング、ビッグデータ解析、プロモーションなど幅広く経験しました。そして、もう一つ大切なのが、コミュニケーションです。

様々な専門職種の方々と対話できる最低限のスキルを身につけて、円滑にコミュニケーションが取れれば事業開発職としての強みにもなると思いました。

ー 大学生の頃から様々な経験を積むことを意識していたのですね。

はい、例えプロフェッショナルになれなくとも様々な経験を積もうと思ったんです。そして、新卒で入社した1社目では、コアスキルとして営業スキルを高めることに注力しました。そして、3年目では、新規事業を小さいものでも良いから関わりたいと思っていたので、成長率が高くて若手でも起用される会社を選びました。

ー 営業スキルを第一に高めていこうと思った理由はなんでしょうか?

営業のスキルはどういった仕事でもコアになると思ったからです。顧客の真のニーズを掘り当て、自分が提供できる最善の解決策を顧客の納得/理解できるストーリーで伝え、自社プロダクトを販売することが営業の役割です。製品を売るという目的のためにも使えますし、他社とアライアンスを組む時にも、起業して投資家を口説くときにも、「その人が何を求めているのか」を把握し「その人の納得/理解できるストーリーで伝える」スキルになります。

また、世間のニーズとしてエンジニアなども今後すごく求められるスキルだと思うのですが、小学生や中学生の頃から才能を開花させているような人、コンテストなどで入賞している人もそれだけ多くいます。この領域では勝てないですが、一方で「小学生から営業マン」は居ないですよね?後天的に身につけられるスキルが営業だと思ったのです。

ー 新卒で入られた企業で事業開発のコアとなるスキルを身につけられ、現在は転職されたとお聞きしました。どういったキッカケで転職されたのですか?

「スキを仕事にしたい」と思ったことと、「より小さな組織で事業開発したい」と思ったことがキッカケです。新卒で入社した企業は、現在2,000人を超える従業員数で、東証一部にも上場しておりメガベンチャーと呼ばれる規模になっています。とても素敵な会社なのですが入社当時に「スキな業界/プロダクト」に関わることは将来でいいと思い優先度を下げ、「スキル/経験」を優先して就活していたので、実は1社目の会社の業界やプロダクトには自分の「スキ」は含まれていなかったのです。

また、ある程度大きな会社となっているので新規事業を担った際にも、戦略の決定から施策の実施、Webマーケターやエンジニアのマネジメントや人の採用、予算の消化など自分の裁量を大きくしていくにはかなりの時間がかかるなと感じました。

とはいえ、コアスキルをしっかりと学ぶことができたので、次はIPO前の小規模な会社で、自分の「スキ」な業界/プロダクトの事業開発ができる会社に転職しました。会社の規模は転職前と比べ小さくなり、リソースも限られているのですが、自分の裁量を拡張して仕事に取り組みたいと思い転職しました。複業もそうですが、色々な領域と関わりながらゼロイチでビジネスを立ち上げるのが純粋に好きなんです。

複業は好きにPDCAを回せる自分だけの「小さな箱庭」

ー そこで複業を本業にしようという思いは生まれなかったのですか?

本業と複業は別軸でやりたいという思いがあります。自分の家族や生活と自分のやりたいことをあまり天秤に掛けたくないんですよね。自分の複業は、自分の家族や生活を脅かすリスクとは分けて、好きにPDCAを回せる「小さな箱庭」のようなイメージです。

本業は、生活を支えるものでもあるので、複業を本業にしてしまうことによってそこで出来ることが限られてしまいます。事業開発を味わいながら、練習台のようなことをし続けることができるのが複業です。

例えば、会社として事業開発をやっているとリスクを考慮して実施できる戦略って慎重に考えますよね。失敗したらこういったリスクがあるといったように。複業は本業があるからこそ、そういったリスクを考えずに挑戦できるのが好きなところです。

それに、本業で事業が広がると、全てに自分が関われるわけではなく、役割のレイヤーが変化したり、オペレーション方法が変化します。複業であれば、自分で全てに関わることができますからね。

なので、「さくらとこむぎ」のアカウント運用をベースに、YouTubeのチャンネルを開設していまは実験的に動画編集をしたり、デザインまで自分で担っています。そうやって肌感をもって事業開発をする気持ちを常に持っていたいんです。ゆくゆくはYouTubeでも収益化するのが目標ですね。事業として成立すること、それを立ち上げることにすごくやりがいを感じるので、積極的に事業として関わっていきたいです。

 

 

ー 複業が本業に活きた経験はありますか?

インスタグラムやYouTubeのアカウントを運用する上で、クリエイティブに関する知見が蓄積されていきました。それにより、デザイナーやエンジニアとのコミュニケーションが格段に取りやすくなりましたね。

そして、複業をやっているからこそ今まで以上に多くの人と知り合えたり、興味を持ってもらえる機会が増えました。アカウントが有名になって注目してもらえることで、本業のお客さんからもプライベートな友達からも、「話を聞かせてほしい」「相談に乗ってほしい」といった誘いを貰うことが増えましたね。

自分のハードルを下げ、身近な人に価値を提供することが複業の第一歩

ー 今後複業を始めたいといった方に向けてアドバイスはありますか?

何か自分の夢中になれることをキッカケに複業を始めると良いですね。僕の場合は、さくらとこむぎの2匹を飼い始めたこと、好きなインフルエンサーが居たことがキッカケです。それに、最初から有名なインフルエンサーになろうと大きすぎる目標を立てるのではなく、最初のハードルをとにかく下げることが大切です。

インスタグラムであれば、半年て5000人のファンを作ろうとかではなく、まずは1週間で3回投稿してみようとか、一歩踏み出すための心理的なハードルを下げて挑戦してみましょう。また、僕自身が効果的だなと思ったのは「宣言」することですね。

普段利用しているSNSなどで「インフルエンサー活動しています!応援してください!」と発信するとか。宣言することで、アドバイスを貰えることもあるし、「やるぞ」というモチベーションにもなります。

インスタグラム運用のセミナーを始める前は、キレイなスライド資料もなくスプレッドシートで自分用の運用シートがあるだけでした。しかし、講座を受けてもいいよという人に講座開きますと宣言をして、その講座の当日までに良い資料を作ることを目標にして帳尻を合わせることができました。

ー 何を複業にしたら良いかわからず、そこが障壁という方もいらっしゃいますよね。

例えば、営業をやっている人であれば、後輩とか友人の悩み相談のような小さなキッカケから講座にするというのは面白いかもしれません。身近な知人からフィードバックをもらって、そこでは収益化とかも考えずに純粋に相談にのる。そういった経験を経て、営業セミナーとかコンサルティングを行ってみるなど段階を踏んで始めることです。

結局のところ、複業っていうのはキッカケありきの人も多いのかもしれません。そして、そのキッカケを自分でうまく作れるかが大切。僕の友人に、趣味としてヨガが大好きな人が居て、インスタグラムでその発信をしてみたら「教えてほしい」って知人から声をかけられて、スタジオを借りて教え始めたんです。そして、ニーズがあることがわかり、現在ではスタジオ経営をしています。

そういったキッカケ次第で、小さいところからスタートできるのが複業ならではの強みですよね。本業ではそうもいかないですから。仲の良い友人を呼んで、その人に何が出来るか、小さな価値でも良いから始める。そして、意見を貰いながらどうやって拡張していくかを考えてみてください。

取材後記

本業では新規事業の立ち上げを行う傍ら、愛犬のインスタグラムアカウントを運用し複業に昇華させ、YouTubeというプラットフォームで新たなチャレンジも始める二神さん。貪欲にスキルを吸収し、趣味の枠を超えて事業として成立させるそのバイタリティの根本には父親の仕事観がありました。

様々な事業を手がける経営者の父親に憧れ、学生時代から複数社でインターンを経験し、現在は本業と複業それぞれを別軸で楽しみながら働いていらっしゃいます。

そんな彼の印象的な言葉が「事業をゼロイチで立ち上げて軌道に乗る瞬間が楽しい」というもの。ペットのインフルエンサーと聞くと、趣味の延長線上で偶発的に仕事になった印象を持ちますが、二神さんは明確に戦略を持ってアカウントを運用し、その仮説検証プロセスを純粋に楽しんでいるのが印象的でした。

「好きなことを仕事に」も素晴らしい複業の機会ですが、「価値を提供するにはどうすれば?」という思考の持ち方も複業の一つのキッカケになるのではないでしょうか?

文章/写真:臼杵優(Twitter @yuu_da4

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