ダブル正社員という働き方

ー まずは、蓑口さんのご経歴を教えてください。

スキルシェアのプラットフォーム事業を手がけるランサーズで地方創生事業の立ち上げに関わりながら働く一方で、ガイアックスという企業に所属しながらシェアリングエコノミーの普及啓発をおこなうシェアエコ協会に携わる「ダブル正社員」をしていました。周りからは日本初の「ダブル正社員」だと言われながら、2年ほど働いていました。

ダブル正社員については、2017-2019年の2年間継続したのち、契約を完了。現在は週4シェアリングエコノミー協会の事務局、週1富山のフリーランスとして活動しています。

ー 当時はダブル正社員という働き方は、異色だったのではないでしょうか?

完全に異色でしたね(笑) 周りからは「えっ、この人、どうやって働くの?」みたいな目はありましたよね。

ー ダブル正社員のような働き方をするきっかけは、何だったんでしょうか?

私のやりたいことが、1つの会社では収まらなくなってきたからです。もともとランサーズに入った理由は、地域で仕事を作りたいという思いからでした。そして実際に地域事業を立ち上げる機会をいただいて、地方を回って新しい働き方を提案していました。しかし、ユーザーがランサーズを使って地方で仕事を見つけたとしても、そこに行くまでの交通の便が悪かったり、泊まる場所をうまく見つけられないなどの、地域には星の数ほどの問題がありました。

ー 理想に行くまでのギャップがあったんですね。

そうですね。IT技術によって仕事を取れるツールはあるのに、地域に住んでいる方は、使い方を知らなかったり、実際に働き始めるというフェーズまで行けない、継続できないという環境に気づいてしまったんです。

ー 以前取材させていただいたリッキーさんも同じようなことを言ってましたね!便利なツールを教えても、実際に使える人はごくわずかだと。

本当にその通りなんです。それに気づいたのがランサーズに入社して3年目で、この現状を広めるためにランサーズ以外でも働きたいなと思い始めました。そのことを代表の秋好に相談したところ、2つやればいいんじゃないかみたいな提案をいただきました。

業務委託とかフリーランスとかいろんな選択肢をもらったんですが「どっちも正社員で働くのが一番面白いんじゃない?」っていうのを言われて、ダブル正社員になることに決めました。

あとは、私自身サラリーマンであることにコンプレックスを持っていて、それがダブル正社員を続けられた秘訣かもしれなです。

ー 何がコンプレックスだったんでしょうか?

ランサーズでは新しい働き方をしませんかというのを毎日、地域の方に言っているにも関わらず、自分の働き方を見返してみると何の新しさもない。言っている本人が普通に働いているのに、周りに対して、新しい働き方を提案するってどうなんだろうって、ずっと思っていました。

ー なるほど。

美味しいものを食べてない料理人が美味しいものを作れないのと同じで、働き方の多様性をうたっている人が一様な働き方をしていてはダメだと思ったんです。

ー 「The 正社員」みたいな(笑)

そうなんです。私が世の中に対して、新しい働き方として提案するにはどうすればいいんだろうってずっと悩んでいました。私がダブル正社員という新しい働き方をすることで、話を聞いてくれる相手が「もう新しい働き方は、そんなに振り切れているんだ。じゃあ、自分も少しぐらい副業しても大丈夫かも」とハードルを低く思ってもらえるような存在になりたかった。。そうやって、自分で新しい働き方というものの社会実験を行いつつ、地域の方にとって一歩踏み出す起爆剤というかおもしろネタとして使ってもらえたらと思い、ダブル正社員になることを決断することができました。

周りの人とのコミュニケーションが働きやすい環境に

ー ダブル正社員の時はどのような働き方をしていたんですか?

繁忙期によってスケジュールを調整していました。ランサーズが忙しい時期は、ランサーズに多めに出勤するとか。タイミングによって、チームに相談し比重を変えていましたね。

ー フリーランスみたいな働き方ですね!

そうですね。労働時間によって雇用保険の有無や契約内容が変わってくるので、適当なタイミングで雇用契約を作ってもらっていました。人事の方はすごい大変だったと思いますが、周りの人が受け入れてくれていたおかげで、ダブル正社員という働き方ができたと思います。

ー 働きやすさってそういうことですよね。

もし周りの人が「あいつだけ特別扱いしている」とか「なんでこんな面倒なことをしなきゃいけないの」みたいなことを言われていたら、2年も続けられずに心折れていたと思います(笑) 当時担当してくれていた人事の女性が「全然いいよ。勉強になるから」って言ってくれたんです。彼女がいなかったらダブル社員という働き方はできなかったと思います。

ー 周りの目は大事ですよね。

はい。周りの目を気にしすぎてもダメですが、周りの理解を得てもらうことは働く上で大切です。だから、私の場合は会社の人を一人ずつ誘ってお茶して、自分が今こういう働き方をしていて、なんでそう言う働き方をしているのかという理由をしっかり聞いてもらっていました。たぶん、ここで会社の人に話さないでコソコソやっていると「なんで蓑口さん、最近会社にこないの?」という不信感から変な憶測が生まれる可能性がありますからね。

続ける秘訣は「覚悟」

ー 実際に2年間ダブル正社員をやってみた感想はいかがですか?

正直、今は「ダブル正社員、できちゃった!」という驚きと感動が一番大きいかもしれません。日本初のダブル正社員、前例も無いし、なんだかとっても大変そう。でも仲間や上長の理解を得て「2年間やりきれちゃったよ、すごい!」という想いが一番先に湧き上がってきます。もちろん、いいことばかりではなくで大変なこともたくさんありました。ダブル正社員ということで、どちらの会社でもしっかり勤め上げるっていうのが当たり前なので、とにかく忙しくも仕事はきっちりやりきりたいとおもい行動していました。そのために徹底的に削れるところは削って働いていました。

ー 続けられた秘訣は何だったんですか?

「覚悟」ですかね。地域事業をやりたいっていう思いがずっとあって、しかも自分で言い出したからには後には引けませんでした。でもその覚悟があったから、2年間も続けることができたんだと思います。私の中でダブル正社員であることは、地域の雇用を創ることが目的であって、ダブル正社員であり続けることが目的ではないです。なので、地域プロジェクトが一旦落ち着いたタイミングでそれを実現するためのダブル正社員を絶対に続けたいっていう想いはなかったですね。

ー 自分のやりたいことができるのが、たまたまダブル正社員っていう雇用体系だったと。

そうですね。ダブル正社員は、目的じゃなくて手段にすぎないです。よく複業をすることを目的においている人を見ますが、重要なのはその先に何をしたいかだと思います。「今流行っているし周りもやってるから、自分も興味あるんですよね」という感じだと、なかなか上手くいかないし継続できないと思います。

ー 上手くいっている人は、複業の先の目的が明確ですもんね。

その通りですね。目的が明確だと行動も一貫するので、本当に大事だと思っています。

余白の大切さ

ー ダブル正社員だと日々の仕事で忙しくなると思いますが、その中でもスキルアップするためのコツみたいなのはありますか?

日記で毎日振り返ることをしていました。

ー 日記ですか?

はい、そうです。例えば生産性を上げるためにはどうすればいいのか、この人の欲しい物を出来るだけ早く提供できるためにはどうしたらいいのかを毎日日記に書いてました。週末には、振り返ったことをもとに翌週の目標を立てるということを継続してやっていました。

ー 今もずっとやっているんですか?

今はやらなくなりましたね(笑) 振り返るクセは付いているんですが、日記を書くことで余白を削っていることに気づいたんです。振り返ると生活の中で余分なことに気づいて、次の目標でそれをやらないような目標を立ててしまうんですよね。人と無駄話したり、会話を楽しくするために相手の気持ちを汲んで別の話題にそらすとか、こういう目的に直結しないアクションをどんどんやめていってしまったんです。今見える無駄を削ぎ落とすことで、徹底的に効率の良さを求めていきました。ダブル正社員っていう「空気の薄い」環境の中で、両方に求められるようになりたいと思っていた結果、こうなってしまいましたね。

ー 効率を求めすぎていたんですね。

はい。でもそうすると、本当に息苦しくなって、当時はストレスを感じてニキビができやすくなっていました(笑)それから一旦日記はやめて、余白を意識するようになり、最近ではやっと深呼吸ができるようになりましたね。

タイミングが合えば、働き方にはこだわらない

ー 2年続けたダブル正社員を辞めた理由はなんででしょうか?

関わっていた地域事業の事業プロジェクト期間が切り替わるタイミングであったからです。そこから新しく始まった地域もあったんですが、思いを同じくして引き継げる仲間がいることで大丈夫かなと思えました。

ー 続けるという選択肢はなかったんですか?

結構迷いました。しかし、ちょうど事業が終わった時に、自分の故郷でもある富山県の仕事の働き方を変えて欲しいという内容の相談を受けて、やりたいなと思い、ダブル正社員のキャリアにピリオドを打ちました。

ー 現在は、どのようなスケジュールで活動されているのですか?

シェアリングエコノミー協会というところで、地域に適したシェアの概念を広めることを週4でやっていて、週1でフリーランスのような仕事をしています。

ー 週1フリーランスって新しい複業の形ですよね。隙間時間で複業をするのではなく、週4日働いて、1日を自分の好きなことに費やす。

新しいと思います。こういう働き方をしてくれる人が増えてもいいかもしれないですね。

第三者の目線がやりたいことを見つける鍵となる

ー 最後に、複業をやりたいことがわからないという人に向けて、何かアドバイスをお願いします。

誰かに喜ばれて嬉しかった経験がないか思い出してみて欲しいです。ボランティアでもサプライズでもいいんですけど、自分がやったことで誰かが喜んでもらえることって絶対にあるはずなので、それは何かを考えてみてください。それを細かく見ていくと、なんらかの傾向があって、自分ってこんなことをやると喜ばれて、自分はそれに対して幸せを感じるんだみたいなことがわかってくると思います。それが、結果的にやりたいことに繋がると思うんですよね。

ー その喜ばれたエピソードが思いつかない人はどうすればいいですかね?

友達に聞いてみるっていうのはアリかもしれません。身近な友達に、素直に「複業したいんだけど、何ができるかな」って聞いてみる。第三者の目線の方が、客観的に自分の得意なことをわかっていたりします。私の知り合いは、妹に「得意じゃん!できるじゃん!」って言われたところから複業をスタートしたそうです。信頼できる友達であれば「私が得意なところ5個くらい言って!」って聞いてみてもいいかもしれないですね。そうやって、自分が得意なところを見つけてもらうことが、やりたいことを見つける第一歩になると思います。

ー 客観的な視点がやりたいことを見つけるには重要なんですね。素敵なお話をありがとうございました!

編集後記

ダブル正社員という前例のない働き方で、地域の働き方を変えたいという想いを実現させてきた蓑口さん。1社でも大変な正社員を2社やるためには、自分を突き動かす原動力となる軸がないと難しいでしょう。

「この空気が薄い経験があったから、今は空気をたくさん吸えている」

と蓑口さんはおっしゃっていました。ダブル正社員はあくまで手段。自分のやりたいことを実現させるために、自分のベストが何かを考え、それに合わせて柔軟に働き方を変えていることがわかりました。

今後も、蓑口さんが感じている地域の働き方のギャップを埋めるために、より一層活躍を遂げることが期待できます。

この記事を書いてくれたひと

この記事を書いてくれたひと:なまっちゃ/ Namatcha

なまっちゃ/ Namatchai

ブロガー・ウェブデザイナー。女子大生のころから複数のメディアを運営。イベントレポートや商品・サービスの紹介記事を書くことを得意とする。最近は大好きな抹茶の商品開発や企画も行なっている。

Twitter:@namatcha_

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