1秒に売れるアイテムは数十個、送られる「いいね」の総量は数万件、ユーザー数は3億2500万人ーー。動画のストリーミング配信を通じて、視聴者にまるで“話しかける”ようにインフルエンサーがモノを売る。「ライブコマースアプリ」の波が日本にも来ています。

中国のECサイトが一斉にセールを行う11月11日(通称「独身の日」)には、中国のEC大手「アリババ」が8時間にも渡るライブ配信を実施。2017年11月11日、アリババが“たった一日”で売り上げた金額は2兆円に達しました。

国内ではメルカリがタレントを起用した「メルカリチャンネル」を導入したほか、クルーズ・DeNA・BASEなどが参入しており、黎明期をむかえています。

そんな巨大なライブコマース市場で大勝負をかけるのが、弱冠21歳の起業家・株式会社Flattの井手康貴さん。「本当の意味の『好き』をシェアすることが、“小さな経済圏”の創出につながる」と語ります。

井手さんが代表取締役社長の株式会社Flattはライブコマースアプリ「PinQul(ピンクル)」をリリース。「次の『かわいいジブン』にライブで出会おう。」をキャッチフレーズに、国内のマイクロインフルエンサーを中心とした「コーディネーター」が、自身が作ったハンドメイドや選んだアイテムをライブで販売。また、アパレル会社「MARK STYLER」と提携した、ブランド商品の販売もすすめています。

消費者にとってライブコマースは、色やサイズ、質感をECよりもリアルに確認できる画期的な手段。一方、インフルエンサーにとっては「好き」の延長線上でモノを売ることができる、新しい自己実現のあり方になるかもしれません。

今回のHARES編集部はライブコマースが生む、「新しい経済圏のあり方」を取材しました。

18歳選挙権ーー高校生が日本の漂う“閉塞感”に向き合う

ー井手さんは、弱冠21歳の現役東大生。初めての起業で、ライブコマース市場を選んだ理由を教えていただけますか?

渋谷のスクランブル交差点へ行くと、海外からの観光客が自撮り棒で動画を撮りながら歩いていたりしますよね。あれは実は、動画配信を使って実況中継してるんです。僕たちが見ても「何をやってるのかな?」と不思議に思う程度の行動ですが、世界では「ライブ文化」が日常に浸透している。

市場が大きいですから、いろんな企業が参入するし、競合サービスと比較されることもあります。でも、ライブコマース“自体”がやりたいことのすべてではないんですよね。

日本のさまざまな業界で「もっとよくなれるものが、なりきれていない」ことがある。そういった“歪み”がある部分にひとつひとつ目をつけていった結果がライブコマースなんです。

昔から僕は「日本をどうにかしたい」と思って活動してきました。高校生の頃は「18歳選挙権の普及活動」、つまり、政治にまつわる活動をしていたんです。

日本が課題先進国なのは周知の事実です。それにも関わらず、政治家は長期の視点に立たずに、有権者の“マス”に向けた短期的な政策を打ち出す。それに対して、若い世代が「興味がない」とか「黙認している」状態が、純粋に「ヤバいな」と思います。

18歳で選挙に参加することに決まれば、政治教育が必要になり、結果的に若者の政治意識が高まる。だから、高校生ながらに議員会館に足繁く通ったり、高校生を集めて議論の場を設けたりしていたんです。

でも、イベントで世の中を変えるには限界がある。受験では、医学部志望でしたが高校三年で文転。東京大学に入学し、事業で民間から世の中を変えていくことを選びました。1年生からインターンを始め、FiNC・メルカリなどでサーバーサイドのエンジニアをしていました。

起業は早い方がリスクが少ない。参入する市場を決めるため、いろいろな課題に目をつけていったところ、「個人の人生が、枠組みによって決まっていること」に行き当たったんです。

これまでは新卒入社して「企業に入って稼ぐ」が常識で、その枠組みのなかで生き方が制限されていました。たとえば、女性は入社したら、結婚や出産と同時に退社する。それがすべてではないですが、“事実”が存在しますよね。

ライブコマースなら、「個人が自分の『強み』を活かしてお金を稼ぎ、経済を回していける」。そう思ったんです。

構想からリリースまでわずか2ヶ月、流れるメルカリの“DNA”

ー井手さんは起業する前に「メルカリ」で働かれていますよね。メルカリでのエンジニア経験の影響も今のサービスにつながっているのでしょうか?

ユニコーン企業が世界に200個ほどあるなか、日本の企業はメルカリだけと言われています。日本経済が停滞しているのに逆行して、メルカリは「大きな経済圏」を実際につくり、世界に向けてビジョンを発信しています。

それこそ、地方在住の農家がメルカリで野菜を販売したり、専業主婦がお小遣いを稼いでいたりする。「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションに共感しています。

また、ミッションやバリューが社内の隅々にまで浸透しているんです。「GO BOLD」の名の下に大胆に意思決定し、素早く実行します。

ーメルカリのインターン時に、「これは大胆だ」と思うような出来事はありましたか?

一番驚いたのは、US版メルカリのUXを改善していたときですね。US版のアプリは当初、日本と同じUIを採用し、改善のためにユーザビリティテストを加えていました。しかし、アメリカと日本でユーザーの行動が異なり、思うように数字が伸びなかったんです。

試行錯誤した結果、「アプリのUIを抜本的に直す」と意思決定し、新しい機能を加えてリリースし、急激に数字が上昇。

つまり、200人の社員がそれまでにつくりあげた“日本での”成功事例を、全員が納得して捨て去ったんです。

今でも、メルカリは一番の目標です。僕の会社でも、大胆な意思決定とスピード感を大事にしていて、PinQulの構想からリリースまでは2ヶ月で実行しています。

ライブ配信で“ごまかし”はバレる。好きなものを紹介することを徹底。

ーインフルエンサーを起用したビジネスには「ステマ問題」など、まだまだ課題が多いと感じます。ライブコマースならではの解決策はあるのでしょうか?

昨今のインフルエンサーマーケティングは、“信用の切り売り”になってしまう構造にあります。僕たちの世代は宣伝投稿をすぐに見抜きますし、できるだけそれらを避けたい人が多い。フォローした人がつくるコンセプトが好きなのに、タイムラインにその人“らしくない”異質なものが目に入ってくるのはできるだけ避けたいし、視界に入っても無視します。

でも、そもそもインフルエンサーが代理店の言いなりになりやすい構造のなかでは、積極的に依頼を断ったり、詳細に口を出すことはできません。広告主や代理店から、掲載時の文言を指定されることがほとんどなので、極端に言えば「好きでないものをお金のために紹介している」ように見える。フォロワーは「騙された」と感じるのです。

また、ネット上でモノを買うことを躊躇うのは、画像と本物の乖離を恐れているのも理由のひとつ。画像は加工ができますから、質感や本当の色合いまではわかりません。

でも、ライブでは嘘をつくことは不可能です。ライブでは“想い”が伝わる。本当にその商品が好きで、紹介したい想いがあれば、「買ったときの思い出」などを話してくれたりするんです。質感も色合いも動画ではごまかせません。なので、PinQulのコーディネーターには「好きなものを紹介すること」を徹底してお願いしています。

フォロワーとの「距離感」がとても大事で、フォロワーの量が多くても必ずしも量の分だけ購入につながらないんです。むしろトップモデルよりも、親近感のある人の方が売れるんです。

インスタグラムに「画像を載せる」だけでなく、「ライブ配信」を普段から頻繁にやっていると、フォロワーもインフルエンサーとの距離感に慣れます。そこにインフルエンサーが「好きなもの」を紹介するだけで購入につながるんです。逆に写真投稿だけだと、視聴者数に対して比較的にコメントが少なかったり、購買につながらないことがある。

ストーリーが、昨今のインフルエンサーマーケティングの問題を解決し、延いては「個人が稼ぐ手段を見つける」ことにもつながっていくと思うんです。

「小さな経済圏」をライブコマースでつくる

ー最後に、井手さんがPinQulやFlattで実現したいことを教えていただけますか?

最終的には、PinQulの「コミュニティ」をつくりたいんです。

ライブによって個人が世界とつながり、やりたいことが実現される。男女や居住地に関係なくいろんな人がライブでモノを売り、個人が「好き」を起点にお金を稼げるようになったらいいと思っています。

PinQulのコーディネーターが自分のつくったものを売る事例が多くなれば、それに憧れる子もどんどん自分を表現していくようになる。アーティストが自分で描いた絵を売るかもしれませんし、農家が野菜を売るかもしれません。

まだまだフォロワー数が少ない人がコーディネーターになるためにInstagramを使って、フォロワー数が一定基準を超えたらPinQulを使う。この流れがどんどん循環し、コーディネーター同士がつながって仲良くなり、個人が主体となった“小さな経済圏”のようになる。そんな世界をつくりたいと思っています。

取材後記

「天才がいる」。

初めて井手くんに会ったとき、そう思いました。

 東大入学も、グーグルが開発する「Go言語」のコントリビューター(Go言語の開発者)なことも、ライブコマースの巨大な市場に飛び込むことも、彼にとっては通過点なのだと、話していればわかる。同世代として、末恐ろしくなるほどに実力が伴っている。

天才が「世の中を変える」ことに本気になっている姿を見て、「うかうかしていられない」と奮い立たせられる人も多いのではないでしょうか。

撮影:豊田恵二郎@toyojuni 

 
この記事のつくり手

この記事の作り手:奥岡権人 / KentoOkuoka

奥岡権人 / KentoOkuoka

“「HARES.JP」は、小さな世界をつなぐコミュニティメディアです。世界に無数に存在する小さな組織をメディア(媒介)として引き合わせ、新しく小さなコミュニティをつくる。「大事にしたかったけど、今までできてなかったこと」を記事として発信し、利己と利他、仕事と家庭、経済合理性と幸福など、対極にあるものの“両方”を大事にできる世界をつくります。”

Twitter:@ketokunsan | Facebook:奥岡 けんと

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