突然ですが、「AI」って怖くないですか?新聞を開けば「AIでどこまでできた」「○○にAIを導入」という記事が目に入り、友人との話でも「それってAIでできちゃうよね」と軽く話題になることもあります。

AIは、「仕事を”奪う”」というマイナスなイメージや、「味方か敵か」という二元論で語られがちです。いつ自分たちの未来を変えてしまうのか、一種の「恐れ」を感じる人も少なくないでしょう。

とはいえ、AIの普及はもはや止めようのない未来。そんな中、”幸せな働き方”をテーマに書籍「2020年人工知能時代僕たちの幸せな働き方」を出版されたのが、株式会社働きごこち研究所の藤野 貴教さんです。

今回のHARES.JPは、7月25日にDIAGONAL RUN TOKYOで開催されたイベント「2020年人工知能時代僕たちの幸せな働き方 〜ワークスタイル×ライフスタイルを考える〜」を取材しました。

AIの時代に求められるのは、「自然体である」こと

藤野さん:

AIはアメリカや中国、イスラエルが技術レベルが高いんですが、実は失われた20年が続くといわれている中でも、日本のエンジニアは結構頑張っているんです。しかし、エンジニアと会話をする非エンジニアの方は、概してリテラシーが低いと思っています。

これからの時代のリーダーは、テクノロジーに強い人がなっていくと思います。そして、大事なのが「自然体」でいれること。僕は本の中で「テクノロジーと近づくことが大事」と主張する一方で、「テクノロジーと離れることも重要」と矛盾したことを言っています。

「正解」、「不正解」と決めるのではなく、矛盾するふたつを”ありのまま”で受け入れられることが、これからはより大事になるんです。

藤野さん:

あるAIベンチャーの社長に「AIと人間の違いはなんですか?」と質問すると、彼は「AIは学習を全て鵜呑みにするが、人間は考えることができる」と答えました。「本当にこの学習は必要なのか?」と立ち止まって考えはしないので、仮にAIに質の悪いデータを与えたら、”バカなAI”ができるんです。

一方で、人間は「問いを立てる力」があります。例えば、自分の部下に仕事を与えた時、「なんでそれをやらなきゃいけないんですか?」っていいますし、子供に「夏休みの宿題やりなさい」といっても理由を付けて断ってくる。その度に「生意気だな」とか思うんですけども(笑)、「面倒くさい」と思うのは、人間特有の「意思」なんです。

AIは「矛盾すること」自体がわからないですが、人間は「どちらも大事」と物事に対して両方の側面を考えることが出来るんです。

21世紀はどんどん対立の時代に入っていくと言われています。本当は「どっちが正しい」がない議題だったとしても、どんどん「正しい」「正しくない」と二極化された世界になっていく。そんな中では、「両方大事だ」と二軸で物事を考えるリーダーシップが必要なんです。

人間の”直感”が先に来て、AIの”論理”が後で追いつく。

藤野さん:

僕は愛知県に住みながら東京でも働いています。27歳で東京から愛知へと移住を決めました。僕がなぜ、自分の会社を「働きごこち研究所」という名前にしているかというと、それまでは働き心地が「悪い」生活を送っていたからなんです。

僕は新卒でアクセンチュアという会社へ入社し、その後ベンチャー企業を2社経験しています。ハードに仕事する毎日で、正直「なんのためにハードに働くのだろう。」と思うことが多かった。そんな中、たまたま出張があり、妻の実家の、愛知県の田舎に泊まったんです。

季節は6月上旬くらいで、外では夜も眠れないほど、カエルの泣き声が響いていました。その時、カエルの泣き声が引き金となり、ふと「こういうところで生きたほうが幸せだ」と思ったんです。言葉にできないような”思い”がこみ上げ、その場で愛知県に住むことを決めました。

 

この話の肝となるのは、「直感が先にきて、論理が後で追いつく」ということ。愛知県への引っ越しが始まるまでの間、僕は「先の目処はついているのか?」といろんな人から聞かれました。「俺の中ではもう直感で決まってる。理由は後からついてくるんだ」と言っていました。

藤野さん:

AIの時代において、人間にしか出せない価値は「直感」なんです。脳科学的な話をすると、直感を司るのは「大脳基底核」。僕たちの中でなんとなく「ビビッ」と来る感覚はここから生まれます。

一方で、大脳新皮質は言語を司る脳。直感を否定する理由を探す。例えば、Facebookで「このイベント面白そうだ」と直感が走ることがあっても、同時に「でも、仕事が忙しい」とそれを否定する論理が生まれますよね。僕たちの脳は、直感を考えるより、論理を考える方が回転が速いので、やらない理由を考えがちなんです。

ただし、「論理がいらない」という意味ではありません。AIのほうが論理が優れている時代が来るとしても、論理は依然として大事です。逆に、「技術が発展とともにAIが感情を持ったら、人間は感情を持たなくてもいいのか」と聞かれたら、答えは「ノー」ですよね。両方を大事にするべきなんです。

移住したのが正解かどうかはわかりません。でもその時、直感で「移住した方が、うまくいく」と思えたのは確か。「正しいかどうか」ではなく、直感に従って「決める」ことができるのは人間ならではの行動なんです。

「身体性」を持つ人は、AIに代替されない

藤野さん:

意外な話かもしれませんが、単純作業や肉体労働はAIに完全には代替されず、残るんです。

先日、ある俳優さんと話しているとき、「僕は後ろに目はついていないけれど、500m後ろからカメラで撮られていてもわかる」と言ったんです。常に「見られている」と意識するから生まれる、芸能人特有の「身体性」です。

人間の身体が処理する情報量は、データにできないくらい多いんです。今この瞬間も、皆さんは僕の事を見ていて、見た目、声・呼吸の波動、心拍数、体の動きといった多種多様で大量のデータを、統合的に”感じ取って”います。人と会った時に「もしかしたらこの人怒っているかもしれない」と、場の”空気”が分かる。

一方でAIは、データを一つ一つ分類し整理することしか出来ないんです。AIは、僕の声を波動データで、話している内容をテキストデータで取得できます。興奮しながら話していることもわかるかもしれません。

でも、AIは「で、なに?」で止まってしまい、そこに意味を与えられないんです。「身体性」を持つ人間でなければ、ふさわしいタイミングで「空気」を読むことができない。

例えば、AIを搭載したロボットにマッサージをさせたら、「適度に心地よいマッサージ」をできるかもしれませんが、身体性を持つ”プロの人間”よるマッサージの気持ちよさには到底行き着きません。

さらに、技術的にセンサーを作ることが可能でも、センサーの一つ一つをロボットにインストールすると、一台につき数億円かかるので、人間と同じ身体性を持つロボットを作るのは経済的理由からできない。

身体感覚から、直感や感情が本来うまれてくるのに、僕らは忘れてしまっているんです。「身体性」を持ち、相手が考えていることに想像力を働かせることができる人は絶対にAIには代替されないんです。

「絶対達成できない」ビジョンを掲げるAmazon

藤野さん:

AIのビジネスはAmazonが「Amazon Echo」で成功しています。Amazonに追随するように、Google、Appleがロボットを作っていますよね。

Amazon Echoには音声認識ソフトの「Alexa」が搭載されていて、英語の自然言語認識のデータを大量に集めて、日々レスポンスの速さや精度を改良している。僕もアメリカで、「空港まで行きたいから、タクシーを呼んで」と話しかけたことがあるんですが、返しのタイミングが絶妙なんです。

AmazonがAIビジネスで成功しているのは、「安く、多く」売ったからなんです。ジェフ・ベゾスは「Amazon Echoは2秒以内にレスポンスがないと不自然だ」と言って、高速なレスポンスを求めます。

そのために、初期のAmazon Echoは高機能でなくてもとにかく安く売りに出したんです。エンジニアが「絶対無理」と思うようなビジョンを掲げ、「2秒以内に的確にレスポンスができる」という目標を達成できるように、音声データを集める。AIは使われていくうちに賢くなるから、最初に打ち出した製品の性能が高くなくても多くの人に使ってもらうことでデータが集まり、当初のビジョンは達成されます。

アマゾンの特異な点は「達成不可能だと思うようなことをビジョンに掲げる」ことでした。「何のために、データを集めるのか」という視点、つまりビジョンが、常人には導き出せないものなんです。Amazonは「高品質な製品を出すことも大事だけど、トライアンドエラーを繰り返すことも大事だ」と、両方を理解できているからこそ、顧客を驚かす製品を作れる。

たいていの企業は高品質な商品を出すために「データを集めること」に集中していて、「何のためにデータを集めるのか」という視点が欠けているんです。結果として、多くの日本企業は「データを集めたわりには高品質ではない製品」が出され、使われずにデータがたまらない。

AIビジネスは「データを持つ」企業が勝つのではなくて、「トライアンドエラー」を繰り返せる企業が勝つんです。経営陣がそれを分かっているかどうかが、今後の命運を分けると思います。

AI時代の”幸せ”とは

藤野さん:

実のところ「AIが仕事を奪う」とネガティブなタイトルにした方が本は売れるんですよ。メディアは不安を煽るような表現をした方が読まれるから、そういう書き方をしますし、経営者から「AIの話をすると、社員が不安になってしまう」と相談を受けることがあります。

でも実際は、AIは「天使」でも「悪魔」でもありません。AIは、AIです。

 

本を出版した後、コールセンターに務めている女性からコメントをいただきました。「コールセンターは一番先に無くなる仕事と言われていて不安でした。でも、私は仕事をしている時、電話をかけてくる人の気持ちに思いを馳せているんです。この本を読んで、私は私の”大切にしていること”を続けたら良いと思えました。ただ、テクノロジーは進化していくから、しっかりと学んでいきたいと思います。」と。僕はそれを聞いて、とても嬉しかったんです。

今日は「AIの話」もしてきましたが、本当に伝えたかったのは「人間」の話です。AIを「善か、悪か」という二元論で考えるのではなく、”今どうすべきか”を考えるのが人間の仕事だと思っています。

取材・執筆:奥岡けんと@ketokunsan

 

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