昨今では、複業解禁の動きが高まりつつあり、仕事での経験豊富な方のスキルが発揮されるのは一社に留まらなくなりました。そんな中、「経営者として複業を行うのが、「働き方ファーム」の石倉さん。

石倉さんは、「ホラクラシー型の人事制度」の導入などでも話題になったオンラインアシスタントサービス「CasterBiz」を展開する株式会社キャスターでCOOを務める傍ら、自身でもCEOとして株式会社働き方ファームを経営しています。

今回のHARES.JPは、石倉さんが「二足のわらじを履く経営者」になるまでの経緯と、「働き方ファーム」にかける思いを取材しました。

石倉秀明さんのプロフィール

2005年、株式会社リクルートHRマーケティング入社。アルバイト、中途採用領域の求人広告の営業としてスタートし、チームマネジメント、事業企画、営業企画などを経験。

2009年6月に当時5名の株式会社リブセンスに転職し、主力事業であるジョブセンスの事業責任者として入社から2年半で東証マザーズに史上最年少社長としての上場に貢献。

その後、DeNAのEC事業本部で営業責任者ののち、新規事業、採用責任者を歴任し、退職。

2016年より株式会社キャスター取締役COOとして活動する傍ら、個人事業主として多くのクライアントの採用や事業立案、営業部門強化のサポートなどを行い、2016年3月、株式会社働き方ファームを設立。

二足のわらじを履く経営者

ーー石倉さんのような「二足のわらじ」を履く経営者はとても珍しいと思うのですが、今の働き方に行き着いたのはどんな理由からでしょうか。

もともと「二足のわらじを履きたい」と思っていたわけではなく、我慢せずにやりたいことを全部やった結果、現在は経営者として2社で活動しています。前職のDeNAでは営業責任者、新規事業、採用責任者とやりがいのある仕事を連続で任せていただいてましたし、退職するつもりはありませんでした。

ところがある日、家族の都合で東京での仕事に専念できず、実家の群馬と行き来したりすることになってしまった。しばらくは、有給を活用しながらなんとか両立していたのですが、問題はすぐに解決するものではなく、あっという間に有休が底をついてしまいました。

リクルート、リブセンス、DeNAの3社での経験を通して、「やりたいことは独立してもやっていける」と自信が多少なりともついていたため、良い機会と捉えて独立を決めました。

経営者であれば、働く場所や時間、仕事の内容の全てを自分でコントロールできる。大切な家族をサポートしながら、自分のやりたいこともあきらめないという働き方が実現できると思ったんです。

まさかの大学中退。それでもリクルートは拾ってくれた

ーーまさに「二兎を追って二兎を得る働き方」ですね。もともと、独立・起業願望をお持ちだったんですか?

意外に思うかもしれませんが、もともとは「安定した生活を送りたい」というのが私のキャリアの軸です。ただ「安定」の解釈は、一般的なものとは違い、「世の中何が起きても自分は困らない人である」ということだったりします。

私は群馬県の田舎の出身で、決して裕福ではない家庭で育ちました。狭い価値観で生きていくことへ抵抗を感じてましたし、お金がないことへのコンプレックスも少なからずありました。

やっとの思いで早稲田大学へ進学しましたが、学費と生活費を含む、大学生活にかかるお金はすべて、飲食店でアルバイトして自分で稼いでいました。無我夢中で働いていました。月の労働時間が300時間を超えたこともあります。

そんなオーバーワークな生活を続けていたある日、体が動かなくなってしまったんです。朝起きようと思っても、起きれない。立ち上がれないどころか、声すら出ない。

「自分の体を壊してまで、働く意味があるのか?大卒の資格が必要なのか?」と疑問を抱くようになり、最終的には3年で大学を中退しました。就職活動も終わり、リクルートにも内定していた時期です。

リクルートに中退した旨を告げると、「大学を卒業していないから正社員としては無理だけど、契約社員でなら入社してもいい」と言ってくれたので、幸いなことに働き口に困ることはありませんでした。

当時から、「どんな不況になっても自分は大丈夫」と胸を張って言える人材になり、安定した生活を送ることを切望していました。その目標に向かって、まずはリクルートの媒体営業としてがむしゃらに働いていました。「大卒の正社員には絶対に負けない」という気持ちでやりきった結果、正社員の方よりも高い成果を上げ続けることができました。

その後、さらに力をつけるために、社員10名以下のベンチャーで挑戦したいと思い、当時社員6名のリブセンスにジョインして事業責任者として仕事を任せてもらい、入社から2年半で東証マザーズの上場に貢献することができました。

リブセンスでのやりがいは大きかったのですが上場して一区切りついたこともあり、さらにスケールの大きい事業に挑戦するためにメガベンチャーのDeNAに転職しました。DeNAでも幅広く仕事を任せてもらえ、事業家としての「基礎がため」ができました。

「二足のわらじで良いから、COOやってみない?」

ーーリクルート、リブセンス、そしてDeNA。それぞれ事業内容や会社規模は違えど、成長できる環境、という意味では共通してますよね。この3社で経験と実績を積んでいたからこそ、今の「二兎を追って二兎を得る働き方」ができているのでしょうね。

まさに仰る通りです。冒頭にお話しした通り、思いがけず独立することになったわけですが、3社での経験を立ち止まって振り返った時に「自分がどれくらい稼いだら、自分がしたいように、自由にお金が使えるか」という目安が見えたんです。

さらに、リクルートでの営業、前職のリブセンスのIPOを通して、独立してやっていけるだけの自分の実力もついてきた、と感じていました。1億の事業なら、リクルートやDeNAでは規模が小さくてやらせてもらえないけれど、今はやろうと思えば自分でもできると思いました。

なので、今回は「何かを成し遂げたい」という成長欲求から独立したわけではありません。そうではなく、「無理に成長を目指す」ことから抜け出し、自分が大切にしたいことを全て尊重するためには自分自身が経営者になるしかなかった。自由を得るための独立です。

今はCOOを務めているキャスターとの出会いも、はじめはフリーランスとして採用を支援したことでした。当初は採用支援だけをするつもりでしたが、自分自身が「働き方を変えざるを得ない」という原体験を持っていたこともあって、キャスターの「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョンに共感し、気づけば事業戦略全般に関わるようになっていました。

そんな中、ある日代表の中川から「取締役になってくれないか?」という提案を受けたんです。ちょうどその頃、大型の資金調達も決まり、取締役会を作るなど、会社としての体裁を整えないといけないフェーズに差し掛かっていました。

自分の会社があったため、普通だったら断っていたかもしれません。でも、中川は「自分の会社はもちろん続けて良い。”二足の草鞋”で良いから、取締役COOをやってみない?」と提案してくれたんです。

振り返って見ると、これまでのキャリアの中で唯一「経営陣としてスタートアップから上場までを経験する」という経験がなかったので、心のどこかでいつかチャレンジしたいとは思っていました。

今のワークスタイルを犠牲にせずに、それを実現できるならば願っても無いチャンス。二つ返事で「やります」と答えました。

 

ーーまさに今、キャスターのCOOとして働きつつ、ご自身の会社を経営されているかと思うのですが、バランスはどのように取られているのですか?

働き方ファームではCEO、もう一方のキャスターではCOOと経営者を兼業していますが、「どちらが”主”なのか」の線引きは曖昧で、両方の会社の仕事も週5日やっています。キャスターでも働き方ファームでも、商談相手のお客様は人事か経営者。会社や人格を分けて会うことはほとんどありません。

「経営者として2つの企業で働く」という言葉だけを聞くと鬼のように働いているように聞こえるかもしれませんが、まだ小さい子どももおり家族との時間も大切にしたいので、なんとか時間がやりくりできるよう徹底的に工夫しています。働く場所もオフィスへの出勤とリモートワークを組み合わせて行なっています。

採用の難易度はどんどん上がっていく

ーーCEOとして経営されている働き方ファームでは、今年4月に面接日程調整サービス「Skett」をリリースされました。「Skett」を立ち上げた背景や思いをお聞かせください。

最初は自分自身の働き方を変えるために「働き方ファーム」を立ち上げましたが、フリーランスとしていくつもの会社の採用をお手伝いする中で、「採用部門にこそ、働き方改革が必要だ」ということを強く感じるようになりました。

誤解を恐れずに言えば、採用担当者は会社全体の「働き方」を考える立場なのに、自身はとても疲弊しやすい。これはDeNAの採用責任者としての活動していた頃の自分の経験からです。日中は候補者との調整業務に追われ、夜も会食が多く、自分の時間が取りづらい。

業務上仕方のないことですが外部からのストレスを受ける中で、ふと「今自分は何をやっているんだろう…。」と心と時間の余裕がなくなっていくんです。

 

ーー具体的にどのようにすれば、採用担当の負担は減るのでしょうか?

主に採用の仕事は、「戦略」「施策」「面談・面接」「オペレーション」「分析」の5つあると思っています。どんな人を採用したいかという「戦略」、どの手法を使って採用ターゲットにアプローチするかという「施策」、実際に人とお会いして選考・動機付けを行う「面談・面接」、面接日程等の調整を行う「オペレーション」、効果測定をして戦略や施策のPDCAサイクルを回すために行う「分析」です。

数年前の採用担当に求められていたスキルは、「オペレーション・エクセレンス」でした。大手の求人媒体やエージェントに求人票を出して応募を集め、その後の調整業務をミスなく、速く、多く実行していくことが競争優位になる。

しかし、有効求人倍率が高まり、採用手法が多様化している今、これからの採用担当に求められる役割は、有効な求人媒体やエージェントの使い方を知っていることだけに留まらず、「市場から直接、人的リソースを調達する」ことにまで範囲が広がっています。採用に対して今まで以上に本気にならない限り、事業を伸ばす以前に人を採用することすらもできなくなるでしょう。

採用をする上で調整業務は必須ですが、本当は候補者の志向と向き合うことの方を優先した方がよいと思っています。

 

ーー採用担当に求められるものが大きくなっていく中で、「Skett」はどのような役割を果たすのでしょうか?

「Skett」は、面接や面談の日程調整を30秒で済ませられるサービスです。これまでは、面接官の空きスケジュールを抑えて、会議室の空き状況を確認する。それからメールで候補日程を送って返信を待って、日程が合わなかった場合はまた一から面接官の空きスケジュールを確認して…と、面接を一件組むのに15分、30分とかかっていました。10件の面接日程を調整をしようと思ったら数時間かかってしまう計算です。

「オペレーション」に使っていた時間をSkettで減らして、本来時間を割くべき「戦略」や「施策」や「面談・面接」など、本質的な業務に集中しませんか、という提案なのです。

先ほど述べた5つの業務中で最も重要なのは、どのような人物を採用すれば、活躍が期待できるのか、どうすれば採用対象に会いに行けるのかという戦略。そして、調整業務自体を美しくこなせるようになることは、今は採用に直結しません。また、効果的な戦略や施策を実行すると、それに伴ってオペレーションが増えていくのが現状です。

採用の面白さは「主語が”会社”になる」ことです。会社員ではなく、より経営者の目線で、人的資本の活用を見据えて、人を採用する。本来であれば、Wantedlyのフィードを使って会社の魅力を発信したり、タレントとコミュニケーションをとったりと、人事が「するべき仕事」に時間をかけるべきです。

 

ーー最後に、今後の展望を教えてください。

まずは、Skettを多くのお客様に使っていただき、「オペレーションの時間が減って効果が出る施策に時間が割けるようになり、採用の仕事が楽しくなった!」と効果を実感していただくことだと思っています。おかげさまで2ヶ月で80社ほどに使ってもらっていますが、今後も拡大していきたいです。

最終的には、Skettというプロダクトで日程調整の手間を無くしてもらうことだけでなく、あらゆるスタートアップの採用をハンズオンで支援できる会社をつくっていきたい。「働き方ファーム」として優秀で意欲の高い人事の方々を巻き込んで、ハンズオンで実際の採用業務にコミットし「採用に強い会社」を増やしていく。そんな、”HRプラットフォームカンパニー”をつくっていきたいと思っています。

日程調整自動化サービス「Skett」はこちら

聞き手:西村創一朗

執筆:奥岡けんと